KHA 2021|第5回韓国ヒップホップアワーズ

深掘り

2022年3月、힙합플레이야ヒプハププレイヤ/Hiphopplayaが主催する韓国ヒップホップ最大の年間アワード「한국ハングッ 힙합ヒプハッ 어워즈オウォジュ/KHA」の第5回授賞式が行われた。
2021年は、박재범パク・ジェボム(Jay Park)が3度目の「올해의オルヘエ 아티스트アティストゥ/アーティスト・オブ・ザ・イヤー」に輝き、KHA史上前人未到の3冠を達成した。
빌스택스ビルステクス/Bill Staxのアルバム『DETOX』がヒップホップ部門の最高賞を受賞するなど、ベテランたちの底力が際立った年となった。
KHAは批評家票(70%)とネット投票(30%)を組み合わせた方式で受賞者を選ぶ。
この比率がKHAを他の韓国音楽賞と一線を画す存在にしており、純粋に音楽的な質とシーンへの貢献度が重視される。
2021年の韓国ヒップホップは、コロナ禍の影響が続きながらもデジタルリリースが活況を呈し、アーティストたちは制約の中で高品質な作品を次々と世に送り出した。


目次

  • 受賞結果
  • 注目受賞
  • この年のシーン
  • KHA 2021が示したもの
  • KHAと韓国ヒップホップの批評文化
  • H1GHR MUSICの2021年
  • 2021年の韓国R&Bシーンとの交差
  • 호미들ホミドゥルの音楽スタイルと将来性
  • マルのひとこと

受賞結果

部門 受賞者 / 作品
올해의オルヘエ 힙합ヒプハッ 앨범エルボン/ヒップホップ・アルバム・オブ・ザ・イヤー DETOX / 빌스택스ビルステクス
올해의オルヘエ 아티스트アティストゥ/アーティスト・オブ・ザ・イヤー 박재범パク・ジェボム
올해의オルヘエ 힙합ヒプハッ 트랙トゥレッ/ヒップホップ・トラック・オブ・ザ・イヤー VVS / 미란이ミランイ feat. Just This (Prod. Groovy Room)
올해의オルヘエ R&B 트랙トゥレッ/R&Bトラック・オブ・ザ・イヤー ALONE / 이하이イ・ハイ/Lee Hi
올해의オルヘエ R&B 앨범エルボン/R&Bアルバム・オブ・ザ・イヤー UNITY II / 사무엘サムエル 서ソ/Samuel Seo
신인상シンインサン/ニュー・アーティスト・オブ・ザ・イヤー 호미들ホミドゥル/Homies
올해의オルヘエ 프로듀서プロデュソ/プロデューサー・オブ・ザ・イヤー 코드コドゥ 쿤스트クンストゥ/Code Kunst
올해의オルヘエ 뮤직비디오ミュジクビディオ/ミュージックビデオ・オブ・ザ・イヤー The Purge / 하이어뮤직ハイオミュジッ/H1GHR MUSIC
올해의オルヘエ 레이블レイブル/크루クル/クルー・オブ・ザ・イヤー 하이어뮤직ハイオミュジッ/H1GHR MUSIC

注目受賞

박재범パク・ジェボム:史上初の3度目アーティスト・オブ・ザ・イヤー

AOMG・H1GHR MUSICのCEOとして、そしてラッパー・プロデューサーとして多方面で活躍する박재범パク・ジェボムが、KHA史上初となる3度目の「올해의オルヘエ 아티스트アティストゥ」を受賞した。
2017年と2018年に連続受賞し、2021年に3度目の頂点に立つという偉業は、韓国ヒップホップシーンで彼が持つ唯一無二の影響力を証明している。
2021年は自身のレーベルH1GHR MUSICからコンピレーション「RED TAPE / BLUE TAPE」をリリースし、所属アーティストたちを束ねながらシーン全体を盛り上げた功績が高く評価された。
「RED TAPE」はPandaGold、Woo、Los、Woodieなどの所属ラッパーが参加し、H1GHR MUSICのスタイルを凝縮した一作として話題を集めた。
「BLUE TAPE」はよりメロウで実験的な方向性を打ち出し、レーベルの音楽的な幅広さを世に示す内容となっていた。
レーベル「H1GHR MUSIC」はこの年、「올해의オルヘエ 레이블レイブル/크루クル」と「올해의オルヘエ 뮤직비디오ミュジクビディオ」も受賞し、박재범パク・ジェボムはKHA 2021で個人・レーベル合わせて3冠を達成している。
米国・シアトル出身の韓国系アメリカ人として、かつては2PMメンバーとしてアイドル活動をしていた経歴を持つ박재범パク・ジェボムが、ヒップホップシーンの頂点に君臨し続けるという事実は、韓国音楽界の多様性と彼自身の卓越した才能を物語っている。

빌스택스ビルステクス:ベテランの矜持『DETOX』

2004年にデビューし、長年にわたって韓国アンダーグラウンドヒップホップを支えてきた빌스택스ビルステクス。
本名ペ・ビョンソクとして知られる彼は、2000年代から一貫してリアルヒップホップを標榜し、商業的成功よりも音楽的な信念を優先してきたアーティストだ。
アルバム『DETOX』はその名の通り、商業主義から距離を置き、純粋なヒップホップへの回帰を表現した一枚だ。
収録曲は全て緻密に構築されたリリックと、ヒップホップの本質を追求したプロダクションで彩られており、一曲一曲に長年のキャリアで培われた哲学が滲み出ている。
評論家票を中心に高い支持を集め、シーンの若手化が進む中でベテランが最高賞を射止めた点がこの年のKHAの象徴となった。
「ベテランこそが韓国ヒップホップの礎を作った」という批評家たちの信念が、この受賞に込められていると言っていいだろう。
彼の受賞はまた、KHAが単なる人気投票ではなく、シーンへの長期的な貢献を評価する場であることを改めて示すものでもあった。

미란이ミランイ「VVS」:トラック・オブ・ザ・イヤー

Groovy Roomプロデュースによる「VVS」は、Just Thisをフィーチャーした미란이ミランイの楽曲だ。
「VVS」とはダイヤモンドの品質グレード「Very Very Slightly included」の略で、最高級の宝石を意味するスラングとして使われることが多い。
Groovy RoomことHovo(호보ホボ)とLimjo(림조)によるプロダクションは、重厚でスモーキーなビートに洗練されたサンプリングを組み合わせ、미란이ミランイのフロウを最大限に引き立てている。
キャッチーなフック、洗練されたビート、そして確かなラップスキルが掛け合わさった一曲で、ネット投票・評論家票の両方で支持を集めトラック部門の頂点に立った。
Just Thisのフィーチャーも絶妙で、2人の異なるスタイルが一曲の中で完璧に調和している。
この曲は韓国のみならずアジア圏のヒップホップファンからも支持され、미란이ミランイの名を広く知らしめる一曲となった。

이하이イ・ハイ「ALONE」:R&Bトラック・オブ・ザ・イヤー

元YGエンタテインメント所属のシンガー이하이イ・ハイは、2021年にAOMGへ移籍し、新体制での初作品「ONLY」に続く活動の中で「ALONE」を発表した。
深みのある低音域と感情豊かな表現力で知られる彼女の歌声は、「ALONE」においても存分に発揮されている。
孤独と自由をテーマにした歌詞が多くのリスナーの心に響き、R&Bリスナーのみならずヒップホップファンからも高い評価を受けた。
AOMG移籍後の이하이イ・ハイは音楽的自由度が増したという評価があり、「ALONE」はその象徴的な一曲として語られている。
翌年の2022年にも「ONLY」でR&Bトラック賞を受賞することになる彼女の2年連続受賞は、韓国R&Bシーンにおける絶対的な存在感を示すものだった。

Samuel Seo「UNITY II」:R&Bアルバム・オブ・ザ・イヤー

Samuel Seo(サムエル・ソ)は、ソウル・ファンク・R&Bを独自の感性で融合させるマルチプレイヤーだ。
「UNITY II」はその名が示す通り、前作「UNITY」の続編として制作されたアルバムで、結束・調和というテーマをさらに深化させた内容となっている。
ライブバンドサウンドとモダンR&Bのプロダクションが見事に融合した一作で、2021年の韓国R&Bシーンを代表する作品として高く評価された。
彼はマルチインストゥルメンタリストとしても知られており、アルバム制作においても多くの楽器を自ら演奏するこだわりが音楽的な深みを生み出している。
KHAのR&Bアルバム部門は、こうした実験的かつ完成度の高い作品を毎年選ぶ傾向があり、Samuel Seoの受賞はその路線に合致した結果と言える。

호미들ホミドゥル:신인상シンインサン 受賞

2021年に頭角を現した호미들ホミドゥルが신인상シンインサンを受賞した。
「ホミドゥル」という名前は「鎌たち」を意味し、鋭さと力強さを体現するグループ名として知られている。
Zion.T、Crush、Gacoなどが所属するクルーDDAMDDAMとの関係性もあり、先輩たちの薫陶を受けながら独自のスタイルを確立してきた。
2021年にリリースしたEPは、古典的なブームバップの影響を受けながらも現代的なサウンドに落とし込んだ作品で、評論家から「新人とは思えない完成度」と絶賛された。
グループとしての独特な個性と完成度の高い楽曲群が評価され、次世代を担う存在として注目を集めた。
KHAの新人賞は過去に저스디스ジャスティス(2017年)、DPR LIVE(2018年)、Haon(2019年)など、後にシーンの中心となる才能を早期に発掘してきた実績がある。
호미들ホミドゥルの受賞もまた、そうした慧眼の一つとして評価されている。

Code Kunst:プロデューサー・オブ・ザ・イヤー

Code Kunst(コード・クンスト)は、2010年代中頃からジャズ・ソウル・R&Bを融合した独特のプロダクションスタイルで韓国音楽シーンに存在感を示してきたビートメイカーだ。
本名イム・グァンウクとして知られる彼は、AOMG所属として多くのアーティストとコラボレーションを重ね、2021年も多数のプロジェクトでその才能を遺憾なく発揮した。
2021年のプロデューサー賞は、単年度の活躍だけでなく、複数年にわたってシーンの音作りに貢献してきた実績への評価でもあると言われている。
Code Kunstの音楽は「聴く映画」と称されることがあり、ビートの中にシネマティックな構成美と即興的なジャズの精神が共存している。
単なるビートメイカーを超え、アルバムプロデューサーとしての視点を持つ彼の作品は、韓国のヒップホップ・R&Bシーンに新たな美学をもたらしている。


この年のシーン

2021年の韓国ヒップホップシーンは、大型オーディション番組「Show Me The Money」シリーズが引き続き話題を集める一方、その影響から独立したアーティストたちが高品質な作品を次々とリリースした年だった。
SMTMシーズン10は2021年9月から11月にかけて放送され、若手アーティストの登竜門として機能し続けた。
一方で、KHAの受賞結果が示すように、テレビの露出や話題性だけでなく、純粋に音楽的な完成度と深みで評価されるアーティストが頂点に立つ傾向が続いた。
H1GHR MUSICを筆頭に、大手レーベルが組織的なリリースを展開する「レーベル主導型」のシーンが定着し始めた時期でもある。
コード 쿤스트クンストゥのプロデューサー賞受賞は、ビートメイカーへの注目度が高まっていることを示しており、ラッパーとプロデューサーのコラボレーションが一つのトレンドとなっていた。
R&B部門では이하이イ・ハイやSamuel Seoといった実力派が存在感を発揮し、ヒップホップとR&Bの境界が溶け合いながらシーンが豊かになっていった。
新型コロナウイルスの影響でライブシーンは依然として制約を受けていたが、アーティストたちはその制約を乗り越え、スタジオワークに集中した質の高い作品を産出した。
2021年は「ヒップホップはバズらなくても本物の評価を受ける」という価値観がKHAを通じて改めて確認された年として、シーンの記憶に刻まれている。


KHA 2021が示したもの

第5回KHAは、「継続性と信頼性」をテーマに語ることができる授賞式だった。
Jay Parkの3度目の受賞は、単年度の人気ではなく、複数年にわたってシーンをリードし続けることへの敬意の表れだ。
Bill Staxのアルバム賞は、ヒップホップの本質的な価値を追求するベテランへの称賛であり、シーンの歴史が持つ重みを再確認させてくれるものだった。
新人の호미들ホミドゥル、プロデューサーのCode Kunst、そしてR&B部門での이하이イ・ハイ・Samuel Seoの存在が、2021年の韓国音楽シーンの豊かな多様性を体現している。
VVSのような大衆性と芸術性を兼ね備えたトラックが頂点に立つ一方で、マイナー流通のアルバムが最高賞を受賞するというダイナミズムは、KHAならではの魅力だ。
ここ数年で定着したR&B部門は、韓国のR&Bシーンが独立した批評の対象として成熟してきたことを示しており、ヒップホップと並ぶ評価軸として機能し始めている。
この回を振り返ると、2021年は「量より質」「バズより持続性」という価値観がKHAを通じて改めて示された一年だったと言える。


KHAと韓国ヒップホップの批評文化

KHAがなぜこれほど韓国ヒップホップシーンで重要な存在であるかを理解するためには、韓国における音楽批評文化の成り立ちを少し振り返る必要がある。
韓国では2000年代以降、音楽専門のウェブメディアが次々と登場し、ヒップホップを中心としたジャンル音楽の批評が活発化した。
힙합플레이야ヒプハププレイヤはその中でも最もヒップホップに特化したメディアとして、長年にわたって批評・インタビュー・アルバムレビューを継続してきた。
KHAはその活動の集大成として、年に一度シーンの「ベスト」を問う場として機能している。
日本のヒップホップシーンでは、年間ベストを権威ある形で選出する場が確立されていないことを考えると、KHAという制度が韓国ヒップホップにどれほど重要かがわかる。
批評家票70%という比率は、音楽的な価値を優先するという姿勢の表れだ。
この姿勢があるからこそ、商業的には目立たないアーティストが最高賞を受賞し、それがシーン全体のレベルアップにつながっている。
2021年のKHAはまさにその好例であり、Bill Staxという純粋な音楽的実力者が頂点に立つことで、韓国ヒップホップがいかに深みのあるシーンであるかを世界に示した。

H1GHR MUSICの2021年

2021年のKHAで最も多くの賞に関わったのはH1GHR MUSICというレーベルだ。
Jay Parkのアーティスト賞受賞、H1GHR MUSICのレーベル・MV賞受賞と、同レーベルは2021年のKHAを実質的に席巻した。
H1GHR MUSICは2017年にJay Parkが設立したレーベルで、AOMGと並んで韓国ヒップホップシーンの主要プレイヤーとして君臨している。
所属アーティストにはPandaGold、Woo、Los、Woodie Gochild、pH-1などがおり、それぞれが個性豊かなスタイルでシーンを活性化させている。
2021年のコンピレーション「RED TAPE / BLUE TAPE」は、レーベルとしての統一感と各アーティストの個性を両立させた野心的なプロジェクトで、「H1GHR MUSICというブランドが一つの音楽的哲学を持っている」ということを示した作品だった。
Jay Parkが個人のアーティストとしてではなく、レーベルの代表として評価されたという側面もKHA 2021の特徴であり、韓国ヒップホップにおけるレーベル文化の成熟を示している。
コラボレーション作品やコンピレーションが単独アーティストの作品と同等に評価される文化は、韓国ヒップホップの強みの一つだ。
クルーやレーベルが一丸となって作品を作り、互いを高め合うという精神が、シーン全体のクオリティを底上げしている。

2021年の韓国R&Bシーンとの交差

KHA 2021でR&B部門が充実していたことは、この年における韓国R&Bの急成長を反映している。
Lee Hiの「ALONE」とSamuel Seoの「UNITY II」が共に高い評価を受けたことは、韓国のR&BシーンがヒップホップのサブジャンルではなF、独立した音楽文化として成熟してきたことを示す出来事だ。
Lee Hiは元YGエンタテインメントから独立し、AOGMという環境で音楽的な自由を手にしたアーティストとして、この年特に輝きを放った。
彼女の歌声は韓国語の音の美しさを最大限に引き出す表現力を持っており、ヒップホップトラックのゲスト参加からソロR&Bまで幅広く活躍した。
Samuel Seoはシンガーソングライターとしてのオリジナリティと、ライブバンドを従えたステージパフォーマンスで知られており、「UNITY II」は彼の音楽的世界の集大成とも言える作品だった。
2021年のR&B部門の充実は、翌年以降さらに韓国R&Bへの注目を高める呼び水となり、2022年のTHAMAや2023年の多様なR&Bアーティストの台頭につながっていく。
ヒップホップとR&Bの境界が溶け合いながら、シーン全体がより豊かになっていくプロセスを、KHA 2021の受賞リストは如実に反映している。


호미들ホミドゥルの音楽スタイルと将来性

호미들ホミドゥルの音楽は、古典的なブームバップの文法とモダンな感性を独自に組み合わせたものだ。
グループとしての声の掛け合いと個々のラッパーとしての個性が共存するスタイルは、ソロアーティストが主流の韓国ヒップホップシーンにあって貴重な存在感を放っている。
2021年の新人賞受賞後、호미들ホミドゥルはさらに精力的な活動を展開し、複数のコラボレーション作品でシーンの多くのアーティストと関係を深めた。
KHAの新人賞が「今後を期待する」という意思表示であるなら、호미들ホミドゥルはその期待に応え続けているアーティストとして評価されている。
韓国ヒップホップのクルー文化の良さを体現するグループとして、호미들ホミドゥルの存在は2021年以降のシーンを語る上で欠かせない。
グループとしてラップを続けることの難しさは、個人のスタイルとグループの方向性を両立させるという点にある。
호미들ホミドゥルはその難題を、互いの個性を尊重しながら一体感を保つというバランス感覚で解決しており、それが評論家たちから「グループとしての完成度が高い」と評価される理由だ。


マルのひとこと

Bill Staxが最高賞を取ったこの年、僕は「ベテランが報われるシーンはやっぱりかっこいいな」と素直に思った。
VVSのGroovy Roomのビートは何度聴いてもしびれるし、Jay Parkの3冠という事実もまた、あの時代の韓国ヒップホップが本当に濃密だったことを証明しているように感じる。

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