NO:ELと僕。 노엘과 나

韓国ヒップホップシーンに、10代からその才能を轟かせてきたラッパーがいる。

노엘ノエル、NO:EL。
本名장용준チャン・ヨンジュン、2000年生まれの彼は、高校生ラッパーとしてデビューし、10代にして業界屈指のリリシストと称される存在へと成長した。

ただ恵まれた環境に生まれながらも、内側では深い不安と葛藤を抱えていた。
その複雑な心情をそのままリリックに落とし込む表現力は、同世代のリスナーに強く刺さり、熱狂的なファンを獲得してきた。
父は韓国国会議員という政治家の家庭に育ちながら、自らの言葉で音楽の世界を切り開いてきたそのキャリアは、まさに波乱に満ちている。

飲酒運転をはじめとするスキャンダルで世間を騒がせた時期もあった。
しかしそのたびに音楽と向き合い、自分の声で語り続けてきた。
2024年リリースの最新作「AREA : 4」では、より成熟した表現者としての顔を見せている。
NO:ELとは何者か。
その軌跡をここに記す。


目次
1. アーティスト概要
2. 主要ディスコグラフィー
3. SoundCloudから高等ラッパーへ、10代のブレイク
4. 音楽スタイルとリリックの世界
5. ディスコグラフィー詳解、4枚のアルバムが語るもの
6. 所属事務所の変遷と活動の軌跡
7. スキャンダルと再起、傷だらけのキャリア
8. マルのひとこと


アーティスト概要

項目内容
アーティスト名NO:EL (노엘ノエル)
本名장용준チャン・ヨンジュン (チャン・ヨンジュン)
生年月日2000年5月30日
出身釜山広域市 沙上区
身長173cm
血液型O型
ジャンルヒップホップ、ラップ
所属事務所Indigo Music (2023年~)
デビュー2017年8月6日
使用言語韓国語、英語
クルーredboys、cozyboys、WYBH

主要ディスコグラフィー

年タイトル種別
2017ELLEONOEL正規1集
2018DOUBLEONOEL正規2集
201818’S/SEP
201818’F/WEP
202121’S/SEP
2023TRIPONOEL正規3集
202323’F/WEP
2024AREA : 4正規4集

SoundCloudから高等ラッパーへ、10代のブレイク

NO:ELが世間に認知されるきっかけは、Mnetの音楽オーディション番組「고등래퍼コドゥンレッポ (高等ラッパー)」だった。
2017年の放送時、彼はまだ高校生。
しかし実はそれ以前から、SoundCloudに自作の楽曲をアップし続けており、ヒップホップ好きのあいだではすでに知る人ぞ知る存在となっていた。
韓国のヒップホップファンは耳が早い。
番組に出演する前から「このラッパーは本物だ」という噂がコミュニティのなかで広まっていたほどだ。

高等ラッパーのオーディションで披露した「IDFWU」は、番組を超えてSNSで拡散し、一躍注目を浴びることとなった。
その直接的な物言いと、年齢を感じさせない成熟したフロウは、審査員だけでなく視聴者にも強烈な印象を残した。
番組への出演が呼び水となり、SoundCloudへのアクセス数は急増。
すでにアップされていた楽曲が改めて聴かれ、彼の存在はK-HIPHOPシーンに一気に広まった。

同年9月、デビューアルバム「ELLEONOEL」をリリース。
アルバム名には自分の名前「NOEL」を折り込み、アーティストとしての強い自意識を示した。
また同年には「쇼미더머니ショミドモニ 6 (Show Me The Money 6)」にも出演し、サバイバル形式の番組でも実力を示した。
10代でこれだけのインパクトを放てるラッパーは、韓国でも多くない。
NO:ELはまさに「早熟の天才」と呼ばれるにふさわしいスタートを切った。

釜山生まれだが、幼少期にアメリカで生活した経験があり、英語も堪能だ。
その経験はリリックの言語感覚や音楽的なバックグラウンドに少なからず影響を与えていると言われる。
Yankie (양키ヤンキ) やTablo (타블로タブロ) への影響を公言しており、韓国語の語感と英語的なリズム感が混在するスタイルは、彼のルーツを反映したものとも言える。
DJ Kendrixが主催するMHOODというベニューで、デビュー前からすでにパフォーマンスを行っていたという記録も残っており、若いうちからライブの現場で腕を磨いてきたことがわかる。
SoundCloudに曲をアップし、ライブで直接オーディエンスと向き合うという地道な活動が、後のブレイクの土台となった。

音楽スタイルとリリックの世界

NO:ELの音楽の核心は、「素直すぎるほどの自己告白」にある。
彼のリリックは感情の機微を丁寧に言語化し、誇張を嫌い、リアルな言葉で内面を切り取る。
青春の不安、孤独、家族への複雑な感情、社会への違和感。
どれもフィクションではなく、実体験に根ざした言葉として歌われる。

音楽的には、感情的なシンギングラップを得意とし、ブームバップ的なビートの上で繊細なメロディを乗せるスタイルが特徴的だ。
アメリカのラップシーンの影響を受けつつも、韓国語特有の語感を活かした言葉遊びや比喩表現が随所に見られる。
「音楽を通して最大限、意味を伝えたい」と本人が語るように、メッセージの密度は非常に高い。

コラボレーション楽曲でも実力を発揮している。
Indigo Music所属時代にリリースした「IndiGO」では、Justhis (저스디스ジャスティス)、Kid Milli (키드밀리キドゥミリ)、Young B (영비ヨンビ) と共演し、チャート17位を記録。
「Flex」ではGiriboy (기리보이キリボイ)、Kid Milli、Swings (스윙스スウィングス) と組み、11位まで上昇した。
豪華な顔ぶれのなかでも、NO:ELのバースは際立った個性を放ち、存在感を証明している。

MBTIはINFPまたはINTPと言われ、性格的には初対面の人に対してシャイな面があると本人も認めている。
しかし音楽になると、その内向的な感性が逆に強みに変わる。
自分の内面を深く掘り下げ、言葉にする能力は、まさに内省的な人間だからこそのものだろう。
憧れるアーティストとしてBeenzino (빈지노ビンジノ) の名前を挙げており、洗練されたリリックとスタイルへの志向がうかがえる。

音楽的な趣向として、センチメンタルなラップスタイルを好むと明言している。
ミントチョコレートと野菜が嫌いという茶目っ気のあるエピソードも知られており、ファンのあいだではそういった「素の部分」も愛されている。
表舞台では感情の深みを探るシリアスなリリシストとして存在感を放ちながら、オフでは普通の若者としての側面も持つ。
その対比がNO:ELという人間の面白さであり、ファンが長く応援し続ける理由のひとつだろう。
英語が堪能なことから、海外のリスナーとのコミュニケーションにも積極的で、SpotifyやSoundCloudを通じて韓国国外でも着実にリスナーを増やしている。

ディスコグラフィー詳解、4枚のアルバムが語るもの

NO:ELのディスコグラフィーは、彼自身の成長と苦悩をそのまま映し出す記録と言っていい。
デビュー作から最新作まで、各作品にはその時期の彼が凝縮されている。

2017年9月リリースの「ELLEONOEL」は、NO:ELというアーティストの誕生を宣言した作品だ。
高等ラッパーへの出演で得た注目を背景に制作されたこの作品は、10代の等身大の感情を率直に表現したリリックが並ぶ。
アルバム名に自らの名前を入れた遊び心は、以降の作品タイトルにも引き継がれる。
「ELLEONOEL」「DOUBLEONOEL」「TRIPONOEL」というシリーズタイトルは、NOEL (ノエル) という言葉をさまざまな角度から切り取ったもので、自分というアーティストを解体・再構築していく試みとも読める。
4作目の「AREA : 4」でそのシリーズ命名法が変わったことは、新たなフェーズへの移行を象徴するようでもある。

2018年7月の「DOUBLEONOEL」は、デビューから1年足らずで制作された2作目だ。
所属事務所をPrima Music GroupからIndigo Musicへ移籍した直後のリリースで、環境の変化が音楽にも反映されている。
同年には「18’S/S」と「18’F/W」という季節ごとのEPも2枚リリースしており、この年は特に精力的に楽曲を発表した。
쇼미더머니ショミドモニ 777にも出演し、Kid Milli (키드밀리キドゥミリ) やSuperbee (수퍼비スポビ) と同じステージに立っている。

その後は2019年の飲酒運転問題もあり、しばらく表立った活動が落ち着く時期が続く。
2021年には「21’S/S」をリリース。
このEPは混乱期を経た後の自分を再確認するような作品として受け止められた。
タイトルに「S/S (春夏)」を付けた季節シリーズの命名は、2018年の「18’S/S」「18’F/W」から始まる流れを汲んだものだ。
季節のサイクルのように、また戻ってくる。
そのメッセージが込められているかのようで、ファンにとっては復帰を告げる合図でもあった。
しかし同年、再び問題が発生し、活動は再び不安定になる。

2023年には「TRIPONOEL」と「23’F/W」をリリース。
正規3集となる「TRIPONOEL」は、数年ぶりのフルアルバムとして注目を集めた。
そして2024年6月12日にリリースされた「AREA : 4」は、正規4集として最も成熟した表現が詰まった作品だと言われる。
アルバム名の「4」はシリーズの第4弾であることを示すと同時に、自らの新しい「エリア (領域)」を切り開くという意志の表明とも解釈できる。

所属事務所の変遷と活動の軌跡

NO:ELの所属事務所は、キャリアを通じて何度も変わっている。
2017年のデビュー時はPrima Music Group所属だったが、契約終了後の2018年3月にIndigo Musicへ移籍した。
Indigoでの活動は充実しており、多くのコラボ楽曲が生まれた時期でもある。
しかし2020年9月に同社との契約を終了した。

2021年4月には自ら設立した1人事務所「Glitched Company」と契約。
独立した形で活動を模索したが、同年9月には早くもその契約も終了している。
その後しばらく無所属の状態が続いたのち、2023年にIndigo Musicへ再度加入し、現在に至っている。

クルーとしてはredboys、cozyboys、WYBHの3つに所属している。
これらのクルーを通じて、Kid Milliや他のラッパーたちとの繋がりを維持しつつ、コミュニティの一員として活動し続けている。
また、쇼미더머니ショミドモニには6、777、8と複数シーズンにわたって出演し、番組を通じてさまざまなアーティストとの共演経験を積んでいる。
高等ラッパーにも複数シーズン出演しており、後輩世代に向けての存在感も大きい。

スキャンダルと再起、傷だらけのキャリア

NO:ELのキャリアを語るうえで、スキャンダルの問題は避けて通れない。
2019年9月、飲酒運転を行い、さらにそれを隠蔽しようとしたとして社会的な批判を浴びた。
その後の裁判で執行猶予付きの判決を受けた。
この一件は、デビューから2年で急激に高まっていた彼への期待に冷水を浴びせることとなった。

2021年には無免許運転と警察への暴行容疑も問題となり、再び社会的な非難を受けた。
この時期の一連の問題は、彼自身の内面の混乱と無関係ではないだろう。
父である政治家の家庭に育ちながら、自分のアイデンティティを模索し続けていた姿が、問題行動として表れた側面もある。

2025年末のインタビューでは、拘置所の独居房での生活で「失語症」になったと明かした。
「自分は基本的に不安感が大きい人で、自我が形成されていない時期に高等ラッパーに出た」と語り、あの頃の自分を振り返っている。
父に対しては、19歳で初めて大金を稼いだ際に「男が金を稼ぐことがこんなに孤独だったのか、申し訳なかった」と謝罪したというエピソードも語った。
父は国民の力所属の元国会議員で、すでに故人となっている。

それでもNO:ELは音楽を手放さなかった。
2023年にIndigo Musicへ復帰し、「TRIPONOEL」と「23’F/W」を立て続けにリリース。
2024年の「AREA : 4」では、過去の傷を経由した先にある表現として、より深みのある楽曲を届けた。
どれだけ転んでも、音楽に戻ってくる。
それがNO:ELというアーティストの本質かもしれない。

K-HIPHOPシーンには、苦労や葛藤をリリックに変えるアーティストが多い。
その中でもNO:ELは、自分の弱さや失敗を隠さずに言語化する点で際立っている。
リスナーが彼の音楽に引きつけられる理由は、そのリアルさにある。
スター的なカリスマよりも、等身大の人間としての痛みを共有する、そういう音楽を作るラッパーだ。

父・장제원チャン・ジェウォン (チャン・ジェウォン) は現役国会議員として長年活躍した政治家だった。
政治家の息子という立場は、NO:ELに対するメディアの目線を常に複雑にしてきた。
その重圧の下で音楽を作り続けてきたことは、彼のリリックを読み解くうえでひとつの重要な文脈となっている。
自分の言葉でしか語れないものを、音楽にする。
NO:ELのキャリアはその繰り返しだ。

家族と音楽、政治家の息子というアイデンティティ

音楽シーンにデビューした当初から、NO:ELは「ただのヴァイラルヒット」では終わらない持続性を持っていた。
高等ラッパーに出演した多くのラッパーが数年後に姿を消していくなかで、NO:ELは紆余曲折を経ながらも表現者として生き続けている。
その粘り強さこそが、彼の最大の武器と言っていいかもしれない。

NO:ELが他のK-HIPHOPアーティストと一線を画す要素のひとつが、その出自だ。
父・장제원チャン・ジェウォン (チャン・ジェウォン) は韓国政界で長年活動した国会議員で、尹錫悦政権初代の大統領室広報秘書官も務めた人物だった。
政治家の家庭に育ったことは、NO:ELのキャリアに複雑な影を落とし続けた。
デビュー直後から「政治家の息子」というラベルが常についてまわり、音楽だけで評価されることへの渇望が彼のなかに育まれていった。

2025年末のインタビューで、NO:ELは幼少期を振り返りこう語っている。
母と父から予想以上に可愛がられ、よく旅行にも連れていってもらった恵まれた環境だったと。
それでも内側では被害妄想を抱えていたと明かし、「自我が形成されていない時期に高等ラッパーに出た」と述べた。
注目を浴びることへの喜びと、まだ固まっていない自分が衆目に晒される恐怖が同時に押し寄せてきたのだろう。
19歳で初めて大金を稼いだとき、父に「男が金を稼ぐことがこんなに孤独だったのか、申し訳なかった」と伝えたというエピソードは、彼の家族への複雑な愛情を物語っている。

父は2025年現在、すでに故人となっている。
その事実は、息子の音楽をより深いところで聴くときに、無視できないコンテキストとなる。
NO:ELのリリックのなかに散りばめられた「父」や「家族」への言及は、今後の楽曲でより重みを増して響くかもしれない。
政治の世界で生きた父の人生と、ラップで真実を語ろうとする息子の人生。
その交差点に、NO:ELという表現者が存在している。

K-HIPHOPシーンにおけるNO:ELの位置づけ

2017年のデビューから現在まで、K-HIPHOPシーンは大きく変化した。
BTS以降のK-POPの世界的ブームに引っ張られるように、韓国語の音楽への注目は世界規模で高まった。
一方でヒップホップシーンは独自の進化を続け、BLACKPINKやTWICEとは全く異なる文脈で、よりアンダーグラウンドなリスナー層を抱えるようになった。
NO:ELはその流れのなかで、特に「言葉の力」にこだわるラッパーとして認識されている。

Indigo Musicは、Justhis (저스디스ジャスティス) や Kid Milli (키드밀리キドゥミリ) など実力派ラッパーを多く擁する事務所だ。
その環境に身を置くことで、NO:ELはリリシストとしての技術をさらに磨いてきた。
「IndiGO」でのJusthisとの共演は特に印象深く、重厚なビートの上で個性のぶつかり合いが生まれた一曲として今もファンに語り継がれている。
また「Flex」でのSwings (스윙스スウィングス) との共演は、世代を超えたK-HIPHOPの系譜を感じさせる場面でもあった。

同世代のラッパーたちと比べると、NO:ELは「自分自身の経験からしか書かない」というスタイルが際立っている。
流行のサウンドに乗っかって量産するのではなく、じっくり自分の内側を掘り下げてから発表するペースを守ってきた。
そのため作品数は多くないが、ひとつひとつの作品に重量感がある。
2024年の「AREA : 4」も、前作から約1年のスパンで出た作品だが、その密度はリスナーを満足させるに十分だと評価されている。

K-HIPHOPファンのあいだでは「リリック派」と「フロウ派」という区分がよくされるが、NO:ELはどちらかと言えばリリック派の代表格として語られることが多い。
ただしフロウが弱いわけではなく、シンギングラップの感情表現はこのジャンルでもトップクラスだという声も多い。
釜山出身ならではのなまり (사투리サトゥリ) が時折リリックに顔を出すのも、彼の音楽に独特の温かみを与える要素となっている。

今後の動向としては、2024年のアルバムリリース以降も精力的に活動を続けており、SNSやYouTubeでのファンとのやり取りも比較的オープンだ。
日本のK-HIPHOPリスナーにとっても、その感情的なリリックと繊細なメロディラインは言語の壁を超えて刺さるものがある。
まだ日本での認知度は高くないが、このサイトで紹介することで、より多くの人に彼の音楽が届くことを願っている。
入り口は「IndiGO」や「Flex」といった人気コラボ曲でいい。
そこから興味が湧いたら、ぜひデビュー作「ELLEONOEL」に遡って、17歳の彼が何を思ってリリックを書いていたか確かめてほしい。
時代と傷と音楽が折り重なったその体験は、K-HIPHOPの深みを教えてくれるはずだ。

マルのひとこと

高等ラッパーで初めてNO:ELの「IDFWU」を聴いたとき、高校生がこれほど等身大の言葉でラップできるのかと驚いた。
傷つきながらも音楽を手放さない姿勢に、K-HIPHOPリスナーとして素直にリスペクトを感じている。
スキャンダルで一度はシーンから遠ざかりかけても、新作を出すたびに「やっぱりこの人の言葉は本物だ」と感じさせてくれる。
2024年の「AREA : 4」を聴いていたら、気づけば夜中の2時になっていたのはここだけの話だ。

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