창모と僕。

K-HIPHOP

最初に聴いたとき、正直何が起きたかわからなかった。
ビートが鳴り始めた瞬間に何かが変わって、気づいたらリピートしていた。
창모チャンモ(チャンモ)という名前を知ったのはそういう体験からだ。
韓国語がわからなくても伝わった。
音楽ってそういうときだけ、言語を超えてくる。

チャンモは1994年生まれ、江原道旌善(カンウォンド・チョンソン)出身のラッパー兼プロデューサーだ。
田舎の街から出てきて、韓国ヒップホップの頂点に立った男。
「Underground Rockstar」という言葉が彼の全てを言い表している気がする。
地下から這い上がって、でもスターになっても地下の香りを手放さない。
そんな生き様が音に滲み出ている。

2022年、KHA (Korean Hip-hop Awards) でアーティスト賞を受賞。
アルバム賞、トラック賞、ミュージックビデオ賞と合わせて4冠。
韓国ヒップホップ界が「今年の顔」として認めた男が何者なのか、じっくり掘っていこうと思う。


目次
1. プロフィール
2. ディスコグラフィー
3. 旌善の少年がラッパーになるまで
4. AMBITION MUSIK加入と飛躍の時代
5. METEORという爆弾
6. Underground Rockstarとは何者か
7. チャンモのサウンドを解剖する
8. マルのひとこと

プロフィール

本名:구창모チャンモ (Ku Chang-mo)
芸名:창모チャンモ (Changmo / チャンモ)
生年月日:1994年5月31日
出身:江原道旌善郡
所属:AMBITION MUSIK
ジャンル:ヒップホップ、トラップ、R&B
活動開始:2014年

主要ディスコグラフィー

年 タイトル 種別 備考
2014 Time to Get Money ミックステープ デビュー作
2016 M O T O W N EP デビューEP
2016 Time to Earn Money 3 (돈 벌 시간 3) EP AMBITION MUSIK移籍後
2017 Gettin Money Moment (돈 번 순간) EP Gaon発掘賞受賞
2018 Reached Moment / DNSG (닿는 순간) EP
2019 Boyhood アルバム METEOR収録
2021 Underground Rockstar アルバム KHA2022 4冠

旌善の少年がラッパーになるまで

旌善という地名を聞いてピンとくる日本人は、まあいない。
韓国の江原道にある山間の小都市で、人口も多くない。
日本で言えば、秋田の内陸部か岐阜の山奥みたいな場所だ。
そこからソウルの音楽シーンに乗り込んでいくのは、並大抵のことじゃない。

チャンモがヒップホップに出会ったのは10代の頃だ。
韓国の地方都市では、ヒップホップはラジオとインターネットで届いてくるもの。
リアルな現場がない分、音楽そのものと向き合う時間が増える。
結果、サウンドへの解像度が上がる。
結果、地方出身者のほうが独自の美学を持っていたりする。
チャンモがそのタイプだった、と後になって僕は思う。

2014年、最初のミックステープ「Time to Get Money」をリリース。
同年、Show Me The Money 3 (SMTM3) に出演している。
このオーディション番組への出演は、多くの韓国ラッパーにとって登竜門だ。
日本で言えばM-1グランプリ的な位置づけ、と思えばいいかもしれない。
でも違うのは、優勝しなくてもスターになれるということ。
チャンモはその後SMTM7にも出演し、The Quiettとのチームで話題を集めた。

2016年3月、デビューEP「M O T O W N」をリリース。
当時チャンモは21歳。
若さの割に、音に迷いがない。
モータウンというアメリカ黒人音楽の聖地を冠したタイトルからして、ただ流行を追いかけているのではないことが伝わってくる。

AMBITION MUSIK加入と飛躍の時代

2016年10月、チャンモはAMBITION MUSIKと契約した。
AMBITION MUSIKはDok2とThe Quiettが運営するレーベルだ。
韓国ヒップホップを語るうえで外せない2人の、どちらかといえばオルタナティブな側面を担う場所。
Swings が所属するJAMESSEY Entertainmentとは違う色を持ちながら、同じくシーンの核心にいる。

加入後すぐに「Time to Earn Money 3 (돈 벌 시간 3)」をリリース。
韓国チャートの49位にランクイン。
無名だったラッパーが、いきなり50位圏内に入った。
そりゃそうだ、AMBITION MUSIKブランドは伊達じゃない。
でもそれだけじゃない。
楽曲自体のクオリティが圧倒的だった。

翌2017年、「Gettin Money Moment (돈 번 순간)」でチャート26位を記録。
この年のGaon Chart Music Awards で「発掘賞 (ヒップホップ部門)」を受賞している。
「発掘賞」という日本語訳は少し地味に聞こえるが、要するに「今年一番注目を集めた新人」という賞だ。
シーン全体が「このラッパーはただ者じゃない」と気づき始めた年だった。

2018年には「Reached Moment / DNSG (닿는 순간)」でさらに存在感を高める。
タイトルの「닿는 순간」は「届く瞬間」「触れる瞬間」といった意味だ。
数字に表れない何かに手が届きそうになっていた、そういう感覚の作品だったのかもしれない。
そして2019年、その手がついに掴んだ。

METEORという爆弾

2019年、アルバム「Boyhood」がリリースされた。
そこに収録された曲が「METEOR (메테오メテオ)」だ。
リリース直後はじわじわと広まっていったが、2020年に入ってから爆発した。
韓国のチャートで1位を記録。
遡って2019年リリースの楽曲が、翌年にチャートを制したわけだ。

これはどういうことかというと、流行に乗った楽曲ではないということだ。
バズったのではなく、広まった。
じわじわと人から人へ伝わって、気づいたらみんな知っていた。
そういう種類のヒットだった。

「METEOR」という曲名通り、音は流星のように降ってくる。
メロディアスなフックが耳に残って、でもトラップのビートがしっかり地面を踏んでいる。
歌っているのかラップしているのかわからない瞬間がある。
そのグレーゾーンこそがチャンモの最大の武器だ、と僕は思っている。

韓国語のリリックは、まるで詩のように構成されている。
落下するイメージ、速度、孤独、夜空。
それらが一本の線で繋がっていく。
日本語に訳してしまうと絶対に何かが死ぬので、できれば原語で聴いてほしい。
わからなくてもいい。
音として受け取るだけで十分だ。

2021年の第35回ゴールデンディスクアワードでベストR&Bヒップホップ賞を受賞。
2020年の第10回Gaon Chart Music Awardsではレコードプロデューサー・オブ・ザ・イヤーも受賞している。
ラッパーとしてだけでなく、プロデューサーとしての評価も確立された。
音楽を「作る側」としての実力を、チャートと賞がどちらも証明した形だ。

Underground Rockstarとは何者か

2021年11月、セカンドアルバム「Underground Rockstar」リリース。
このタイトルは、チャンモ自身が長年使ってきた自己定義だ。
アンダーグラウンド出身でありながら、ロックスターのような存在感を持つ。
言葉にすると矛盾しているようで、でも音楽にするとすんなり理解できる。

このアルバムで2022年のKHAを制した。
アーティスト・オブ・ザ・イヤー、ヒップホップアルバム・オブ・ザ・イヤー、ヒップホップトラック・オブ・ザ・イヤー、ミュージックビデオ・オブ・ザ・イヤー (「Taiji」)。
4部門独占。
他のラッパーたちにとって、この年のKHAはそういう大会だったかもしれない。
チャンモが受け取りに来た、そんな感じの。

「Taiji」というトラックは、韓国のロックレジェンド「서태지テジソ・テジ (ソ・テジ)」へのオマージュとも言われている。
서태지テジソ・テジと아이들アイドゥル (ソ・テジとアイドゥル) は1990年代の韓国ポップカルチャーを根本から変えたグループだ。
日本で言えばX JAPANに相当するような文化的インパクトを持つ。
その名を冠したトラックを作るというのは、チャンモにとって相当な覚悟だったはずだ。
そして結果として、KHAのミュージックビデオ賞を獲った。
覚悟は正しかったわけだ。

「Underground Rockstar」というコンセプトは、アルバム全体に貫かれている。
派手さと素朴さが同居する。
自信と自嘲が同居する。
メインストリームにいながら、マインドセットはずっとアンダーグラウンドだ。
旌善から出てきた少年は、成功してもそのことを忘れない。
その誠実さが音に出ている。

チャンモのサウンドを解剖する

チャンモを一言で表現するなら「声が楽器」だと思っている。
普通のラッパーは声でリリックを届ける。
チャンモは声そのものがメロディになる。
これはトレーニングで身につくものではなくて、生まれつきの才能に近い。
日本のラッパーでこの感覚に近いのは、ちょっと思い浮かばない。
それくらい特殊だ。

ビートに関しては、トラップとドリルを基盤にしながらも、そこにメランコリックなメロディをかぶせるスタイルを得意とする。
「暗いのに明るい」「重いのに軽い」という矛盾した形容詞が自然に出てくる。
トラップビートの上でこれだけ感傷的な世界を作れるラッパーは、韓国でも少ない。

プロデューサーとしての能力も高い。
自分のトラックを自分で作ることができるラッパーは、音の自由度が根本的に違う。
「こういうビートがほしい」と思ったときに、すぐ作れる。
Gaon Chart Music Awardsのプロデューサー賞はそれを証明している。
パフォーマーとしての評価と、プロデューサーとしての評価が両立する。
韓国ヒップホップ界でも珍しいタイプだ。

リリックの特徴として、「速度」と「落下」のイメージが繰り返し出てくる。
METEOR (流星) はその象徴だ。
何かに向かって猛スピードで落ちていく感覚、そこに詩を見出す視点。
暗くなりそうなテーマを美しく昇華する技術は、文学的な素養を感じさせる。
旌善の図書館でどんな本を読んでいたのか、正直聞いてみたい。

フロウについても触れておきたい。
チャンモのフロウは変化が豊かだ。
1曲の中でラップとメロディを行き来し、テンポを緩急つけながら聴き手を引っ張っていく。
日本のヒップホップで言えば、呂布カルマのように言葉を積み上げるタイプとは対極にある。
むしろ空白や余韻を活かす。
言わないことで伝える技術、とでも言うべきか。

もう一つ特筆すべきは、ライブパフォーマンスの質だ。
2023年、世宗文化会館でオーケストラとのコラボコンサートを行った。
ヒップホップとオーケストラの組み合わせは奇抜に聞こえるが、チャンモの音楽はそれに耐える構造を持っている。
メロディックなフックがある曲は、オーケストラアレンジに乗っても崩れない。
むしろより映える。
コンサートの評価は非常に高く、チャンモがアーティストとして別次元に踏み込んだ瞬間として語られている。

SMTM出演についても少し掘り下げよう。
Show Me The Money は韓国の人気ラップオーディション番組で、数多くのラッパーのキャリアを変えてきた。
チャンモはSMTM3に出演後、SMTM7では「Illinonaire Ambition」というチームでThe Quiettと組んだ。
プロデューサー側として出演したわけで、これは実力の証明だ。
数年前まで審査される側にいた男が、審査する側に回った。
そりゃそうだ、成長の軌跡がそのまま見える。

AMBITION MUSIKというレーベルが持つ意味についても整理しておきたい。
Dok2とThe Quiettというのは、韓国ヒップホップの歴史を語る上で避けられない2人だ。
彼らのレーベルにいるということは、単純に「バックアップがある」という話ではない。
音楽的な基準を共有しているということだ。
妥協しない姿勢、商業的な圧力に屈しない信念。
チャンモがAMBITION MUSIKを選んだことは、アーティストとしての方向性の表明だった。

AMBITION MUSIKが「韓国ヒップホップのリアル」を担ってきたレーベルだとすれば、チャンモはそのDNAを引き継ぎながら独自の花を咲かせた存在だ。
Swings とは違う方向性、でも同じく「本物」という軸がある。
韓国ヒップホップが多様化したからこそ、それぞれのアーティストが光る場所を見つけられる。
チャンモはその多様性の中で、誰にも似ていない場所を見つけた人間だ。

2014年から活動を始めて10年以上が経つ。
その間、スタイルを変えず、でも進化し続けた。
チャートの1位も獲った。
賞も獲った。
オーケストラとも共演した。
それでも「Underground Rockstar」を名乗り続けている。
旌善の少年がそこにいる。

METEOR以外にも聴いてほしい曲

チャンモをMETEOR一曲だけで判断するのは、もったいない。
「Maestro (마에스트로マエストロ)」は2016年のデビューEP時代の曲で、若いチャンモの自己紹介みたいな一曲だ。
マエストロ、つまり「巨匠」「指揮者」という意味のタイトルを、当時22歳の新人がつける。
これは虚勢じゃなくて、宣言だ。
「俺はこういう人間になる」という。
今振り返ると、その宣言は全部当たっていた。

「Wish」は2019年のアルバム「Boyhood」に収録された曲で、METEORと対をなすような作品だ。
流星のスピードで落ちていくMETEORに対して、Wishはもう少しゆっくり、静かに願いを語る。
同じアルバムの中でこれだけ違う世界を作れるのが、チャンモのラッパーとしての幅広さを示している。
「Boyhood」というアルバムタイトル通り、少年時代の記憶と感情が詰まった作品だ。

Underground Rockstarのアルバムからは「Taiji (태지テジ)」が特に評価が高い。
ソ・テジへのオマージュという文脈で語られることが多いが、チャンモ自身の音楽哲学も凝縮されている。
韓国音楽の歴史を意識しながら、でもそれに縛られずに前に進む。
そういう姿勢がこの曲には出ている。
KHAでミュージックビデオ賞を獲ったのも納得だ。
映像と音楽が完全に一体になっている。

チャンモが示した「地方出身者の可能性」

韓国ヒップホップの中心は、言うまでもなくソウルだ。
홍대 (ホンデ) や 이태원 (イテウォン) を中心に、クラブやライブハウスが集まり、情報が循環する。
地方出身者がそこに入っていくのは、音楽の実力だけでなく、人間関係やタイミングも必要になる。
簡単じゃない。

チャンモが江原道旌善という山間の街から出てきたという事実は、韓国のヒップホップリスナーにも印象的に映った。
「ソウルじゃない場所で磨かれた感性」というのは、確かに音に出ている。
都市の喧騒からではなく、もっと静かな場所から生まれた音楽には、独特の孤独感と透明感がある。
METEORがあれだけ多くの人の心に刺さったのは、その透明感が理由の一つじゃないかと思う。

日本で言えば、東京出身じゃないラッパーが東京のシーンを制する感覚に近い。
地方から来た人間は、最初は余計なものがない分、音楽に純粋でいられる。
商業的な計算より前に、「自分が好きな音楽」がある。
チャンモのキャリアを見ると、そのブレのなさが一貫している。
時代のトレンドに乗るのではなく、自分のサウンドを磨いていった結果が今のチャンモだ。

韓国ヒップホップの文脈でチャンモを読む

韓国ヒップホップは2010年代に急激に大衆化した。
Show Me The Money の影響もあり、ラップは若者文化の中心になっていった。
その流れの中で、チャンモはある意味「逆張り」をした人間だ。
派手なフレックスや過激なディスより、内面に向かう詩的なリリックを選んだ。
それでチャートを獲れるのか、と思うかもしれない。
獲れた。
それが答えだ。

韓国のリスナーは、時に日本のリスナー以上に歌詞を深く読む文化がある。
特にヒップホップリスナーはリリックに厳しい。
チャンモのリリックはその基準をクリアしながら、同時にメロディの美しさで間口を広げた。
コアなヒップホップファンも、普段J-POPを聴いている人も、どちらも満足させる。
それは非常に難しいバランスだ。
でもチャンモはそれをやってのけた。

また、プロデューサーとして他のアーティストの楽曲も手がけていることで、シーン全体への貢献度も高い。
ラッパーが自分の音楽だけでなく、シーンのサウンド自体を形成していく。
そういうポジションに立てるのは、実力と信頼の両方が揃った人間だけだ。
Gaon Chart Music Awardsのプロデューサー賞は、まさにそのことを評価したものだろう。

2022年のKHAで4冠という結果は、単年の爆発ではなく、積み上げの結果だ。
2014年にミックステープを出してから約8年。
急いでいない。
焦っていない。
でも着実に積み上げて、頂点に立った。
韓国ヒップホップのシーンが「今一番誠実に音楽と向き合っているラッパー」として認めた、ということだと思う。

KHAという賞の意味についても触れておきたい。
Korean Hip-hop Awards (KHA) は、韓国ヒップホップのメディアやライターが選ぶ賞で、商業的な売上ではなく、音楽的な質と影響力で評価される。
つまりファンや一般リスナーの投票ではなく、業界関係者が「本物」と認めた作品が選ばれる。
チャンモの「Underground Rockstar」が4部門を制したということは、シーンのプロフェッショナルたちが全員認めた、ということだ。
これは単純にすごい。

これからのチャンモについても少し考えてみたい。
オーケストラとのコラボコンサートを行い、スケールを広げている。
でも基本的なスタンスは変わっていない。
アンダーグラウンドの美学を持ちながら、より広い場所で鳴らしていく。
Underground Rockstar というコンセプトは、まだ進化の途中にある。
次にどんな音を持ってくるのか、楽しみに待っている。

マルのひとこと

METEORを初めて聴いたのは、深夜に作業しながらだった。
別に何かを探していたわけじゃなかったのに、気づいたら同じ曲を3回繰り返していた。
韓国語の歌詞は全然わからないのに、なんか悲しいような、なんか美しいような、そういう気分になった。
音楽が言語を超える瞬間って、本当に稀で、本当に嬉しい。
チャンモはそういう曲を持っているラッパーだ。
旌善から飛び出した流星は、まだ空を飛んでいる。
どこに落ちるか、まだ誰も知らない。
それが今のチャンモだと思う。

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