韓国ヒップホップの歴史に初めて「年間アワード」という概念が定着した記念碑的な年。
日本で言えば年間音楽賞に相当する存在がなかった韓国ヒップホップシーンに、ついに本格的な評価の場が誕生した。
힙합플레이야/Hiphopplayaが主催する「KHA(韓国ヒップホップアワーズ / 한국 힙합 어워즈)」が2018年2月に第1回として開催され、2017年1月から12月にリリースされた作品・活躍したアーティストを対象に受賞が決まった。
Hiphopplayaは韓国最大級のヒップホップ専門メディアとして、音楽評論・インタビュー・ランキングを長年にわたり発信してきた媒体だ。
そのHiphopplayaが批評家票とリスナー票を組み合わせた独自の選考方式でアワードを立ち上げたことは、シーン全体に「より厳格な評価軸」を提示する意味を持った。
商業的な成功だけでなく、音楽的な質や革新性を重視する姿勢が支持を集め、第1回から大きな注目を集めることとなった。
2017年の韓国ヒップホップは「Show Me The Money 6」が大きな話題を集めた年でもある。
SMTM6には빈지노/Beenzino、저스디스/Justhisらが出演し、シーンへの関心がピークに達した時期だ。
一方でアンダーグラウンドでは日常的な言葉で詩を紡ぐリリシストたちが独自の評価を確立しつつあり、KHAはそうした多様な動きをまとめて「見える化」する役割を果たした。
- 目次
- 受賞結果
- 今年のヒップホップアルバム:넉살ノクサル「작은チャグン 것들의 신」
- 今年のヒップホップトラック:비와이ビワイ「Forever」
- 今年のアーティスト & R&Bアルバム:박재범パク・ジェボム (Jay Park) 2冠
- 今年のR&Bトラック:딘ディン「D (half moon)」
- 新人賞:저스디스ジャスティス (Justhis)
- 今年のプロデューサー:그루비룸グルビルム (GroovyRoom)
- 今年のコラボレーション:응 Freestyle
- KHA誕生の背景と2017年のシーン
- 2017年に聴いておきたいアルバム・トラック
- 韓国ヒップホップにおける批評的言語の発展
- 2017年のシーンを彩ったR&Bの隆盛
- マルのひとこと
目次
- 受賞結果
- 今年のヒップホップアルバム:넉살「작은 것들의 신」
- 今年のヒップホップトラック:비와이「Forever」
- 今年のアーティスト & R&Bアルバム:박재범 (Jay Park) 2冠
- 今年のR&Bトラック:딘「D (half moon)」
- 新人賞:저스디스 (Justhis)
- 今年のプロデューサー:그루비룸 (GroovyRoom)
- 今年のコラボレーション:응 Freestyle
- KHA誕生の背景と2017年のシーン
- 2017年に聴いておきたいアルバム・トラック
- 韓国ヒップホップにおける批評的言語の発展
- 2017年のシーンを彩ったR&Bの隆盛
- マルのひとこと
受賞結果
| 部門 | 受賞作品 / アーティスト |
|---|---|
| 올해의 아티스트/今年のアーティスト | 박재범 / Jay Park |
| 올해의 힙합 앨범/今年のヒップホップアルバム | 작은 것들의 신 / 넉살/Nucksal |
| 올해의 힙합 트랙/今年のヒップホップトラック | Forever / 비와이/BewhY |
| 신인상/新人賞 | 저스디스/Justhis |
| 올해의 R&B 앨범 | Everything You Wanted / 박재범 |
| 올해의 R&B 트랙 | D (half moon) / 딘/DEAN |
| 올해의 프로듀서/今年のプロデューサー | 그루비룸/GroovyRoom |
| 올해의 콜라보레이션/今年のコラボレーション | 응 Freestyle / LIVE, Sik-K, PUNCHNELLO, Owen Ovadoz, Flowsik |
今年のヒップホップアルバム:넉살ノクサル「작은チャグン 것들의 신」
넉살(Nucksal)は、流行のトレンドよりも言葉の力を信じる硬派なリリシストとして、アンダーグラウンドで高い評価を受けてきたラッパーだ。
SMTM6にも出演し、シーンの外にいるリスナーにも名を知らしめたが、彼の本質はあくまでもビートの上に紡がれる緻密な詩にある。
「작은 것들의 신(小さなものたちの神)」というタイトルは、日常の細部に目を向けたその世界観を端的に表している。
アルバムを貫くテーマは、派手さや誇示とは正反対の視点、つまり社会の片隅で生きる人々の感情や風景だ。
複雑なライムスキームと緻密な韻の踏み方は、韓国語ラップの可能性を押し広げるレベルにあり、批評家からは満場一致に近い支持を得た。
商業的なヒットを求めず、しかし確かな聴衆に届き続ける姿勢は、KHAが重視する「音楽的な質」と完全に合致していた。
넉살の特徴的なラップスタイルは、言葉の密度と感情の正直さにある。
韓国語が持つ独特のリズム感を最大限に活かしつつ、日常の風景を詩的に描写する技術は、同世代の多くのラッパーとは一線を画していた。
第1回KHAがこのアルバムを最高賞に選んだことは、この賞が単純な人気投票ではなく、音楽的な深みを重視するものであることを宣言するに十分だった。
今年のヒップホップトラック:비와이ビワイ「Forever」
비와이(BewhY)は、2016年のSMTM5で圧倒的なパフォーマンスを見せて優勝し、一夜にして韓国ヒップホップのトップクラスに駆け上がったラッパーだ。
独特の高速ラップとクリスチャンとしての信仰をベースにした歌詞が、他のラッパーとは一線を画す個性を生み出している。
SMTM優勝後の注目が集まる中でリリースされた「Forever」は、その期待に十分に応える作品だった。
「Forever」はビートの上で自在に疾走するフロウと、信仰・夢・自分自身への問いを絡めた重層的なリリックが際立つ。
シンプルなタイトルとは裏腹に、曲の中では永遠性・信念・アーティストとしてのアイデンティティが複雑に絡み合っている。
2017年を通じて多くのプレイリストで上位にとどまり続けた存在感は、KHAのトラック賞に相応しいものだった。
BewhYのラップスタイルの根幹にあるのは、信仰と誠実さだ。
多くのラッパーが誇示や批判をテーマにする中で、自分の信念と感謝を言葉にし続けるBewhYの姿勢は異彩を放っている。
「Forever」はその姿勢が最も凝縮された一曲であり、聴くたびに何か大切なものを再確認させてくれるような力を持っていた。
今年のアーティスト & R&Bアルバム:박재범パク・ジェボム (Jay Park) 2冠
박재범(Jay Park)は、2K POPグループ2PMを脱退後に米国でヒップホップ修行を積み、帰国後に韓国アンダーグラウンドシーンへの橋渡し役として独立レーベルAOMGを設立した人物だ。
2017年当時のAOMGにはGray、LOCO、Simon Dominic、DJ Wegunなどが所属しており、韓国屈指のヒップホップ/R&Bレーベルとしての地位を確立していた。
Jay Park自身も精力的なリリースを続け、ラッパー・シンガーとしての完成度をさらに高めていた時期だ。
R&Bアルバム賞を受賞した「Everything You Wanted」は、タイトル通りに聴衆が求めるものをすべて詰め込んだかのような充実の一枚だ。
R&Bの甘さとヒップホップの切れ味が共存するプロダクションは、Jay Parkの音楽的幅の広さを改めて示した。
アーティスト・オブ・ザ・イヤーとのダブル受賞は、プレイヤーとしてもレーベルオーナーとしても2017年のシーンを引っ張った彼に対する総合評価だった。
Jay Parkがシーンにもたらした貢献は、音楽的な側面だけではない。
AOMG設立によってインディペンデントなヒップホップレーベルが商業的に成功できることを証明し、後に続く多くのレーベルやアーティストに道を開いた。
2017年のJay Parkは、自らも第一線で輝き続けながら、シーン全体を拡大する役割も担い続けていた。
今年のR&Bトラック:딘ディン「D (half moon)」
딘(DEAN)は、若くして国際的な注目を集めたオルタナティブR&Bシンガー兼ソングライター兼プロデューサーだ。
Crush、offonoffらとともに韓国オルタナティブR&Bシーンを形成し、その洗練された音楽性は米国のファンにも届いた。
「D (half moon)」はZicoをフィーチャーした楽曲で、薄暗いムードと官能的なビートが組み合わさったサウンドは、当時の韓国R&Bが到達した高みを示す作品だった。
日本語の歌詞が一部に用いられていることも話題を呼んだ「D (half moon)」は、言語の壁を超えて感情を伝えようとするDEANの創作姿勢の表れだ。
幾重にも重なるハーモニーとZicoのラップが絶妙なバランスで共存しており、ジャンルの枠を意識しない自由な音作りがKHAの評価に結びついた。
このトラックを通じてDEANは、国内外を問わずR&Bアーティストとしての地位を確固たるものとした。
新人賞:저스디스ジャスティス (Justhis)
저스디스(Justhis)は、SMTM6への出演でシーン全体の注目を集めた新鋭ラッパーだ。
その独特のフロウスタイルとリリックの深さは、経験豊富なアーティストたちの間でも際立っていた。
デビュー直後にも関わらず、ベテランのラッパーたちと互角以上に渡り合う姿は、シーンに新鮮な衝撃を与えた。
Justhisの韓国語ラップは、緻密な言葉遊びと内省的なテーマが特徴で、デビュー作から完成度の高いリリシストであることを証明した。
新人賞受賞後も着実にキャリアを積み上げ、翌2018年のKHAではコラボ曲「IndiGO」でトラック賞を受賞するなど、継続的にシーンで存在感を発揮し続けている。
Justhisが2017年のシーンで証明したのは、テレビ番組への出演が実力の証明になると同時に、その評価が瞬間的なものに終わらない本物の才能の存在だった。
今年のプロデューサー:그루비룸グルビルム (GroovyRoom)
그루비룸(GroovyRoom)は、Park Gyu(パク・ギュ)とHojin(ホジン)からなるプロデューサーデュオだ。
AOMG傘下のH1GHR MUSICとも深く関わりながら、シーン全体に楽曲を供給するビートメイカーとして絶大な信頼を得ていた。
2017年には自身のビートが多数のヒット曲に採用され、韓国ヒップホップを縁の下で支えたプロデューサー賞の受賞は当然の評価だった。
GroovyRoomのサウンドは、トラップのグルーヴをベースにしながらもメロディラインへのこだわりが強く、ラッパーだけでなくR&Bシンガーからも引く手あまたの状態が続いた。
翌2018年もプロデューサー賞を連続受賞することになり、この時期のシーンを代表するビートメイカーとしての地位は揺るぎないものとなる。
GroovyRoomの受賞は、個々のアーティストだけでなく制作側の貢献も正当に評価するKHAの姿勢を示すものでもあった。
今年のコラボレーション:응 Freestyle
コラボレーション賞を受賞した「응 Freestyle」は、LIVE、Sik-K、PUNCHNELLO、Owen Ovadoz、Flowsikという5人が参加した作品だ。
「응」は韓国語で返事をする際の「うん」に相当する言葉で、軽やかなタイトルとは裏腹に、5者5様の個性が爆発するフリースタイルセッションが高い完成度を持っていた。
各アーティストの個性が激突しつつも一つの作品として成立している点が評価され、コラボレーションのあり方を示す好例として広くリスペクトされた。
フリースタイルという形式を取りながらも全員が丁寧に作り込んだ印象があり、韓国ヒップホップのコラボ文化の豊かさを体現している。
第1回KHAのコラボ部門にふさわしい、シーンの多様な才能が一堂に会した記念碑的な作品だった。
KHA誕生の背景と2017年のシーン
2017年の韓国ヒップホップは、SMTM6の放送を中心にシーンへの注目が高まり続けた時期だ。
AOMGやHi-Lite Recordsなどのインディーレーベルが確固たる地位を築くとともに、地下シーン出身のリリシストたちが表舞台で存在感を示し始めた。
DEANやoffonoffがけん引するオルタナティブR&Bムーブメントもこの年に開花し、ヒップホップとR&Bの境界線がより曖昧になっていった。
KHAが誕生した背景には、シーンの成熟があった。
2010年代に入り、SMTMシリーズが韓国ヒップホップを大衆の前に届ける役割を果たす一方で、テレビが映し出せるシーンはほんの一部に過ぎないという感覚が関係者の間に広まっていた。
年間アワードという形で2017年の韓国ヒップホップ全体を俯瞰し、質の高い作品を適切に評価する場を作ることへの必要性が、Hiphopplayanを動かした。
第1回KHAの開催はそうした多様化するシーンに「評価の軸」を与えるものとして、関係者から歓迎された。
넉살のようなアンダーグラウンドのリリシストが最高賞を獲得したことは、この賞がただの人気投票ではないことを宣言するものでもあった。
Jay ParkのR&B路線、넉살の詩的リリシズム、DEANのオルタナR&Bという三者三様の受賞は、2017年の韓国音楽シーンが持つ多様性を象徴していた。
2017年をもって韓国ヒップホップは、ストリーミングの普及とSMTMブームが重なった「大衆化の第一フェーズ」を終え、より多様な表現が競合する成熟した市場への移行期に差し掛かったと言える。
第1回KHAの受賞結果は、そうした時代の転換点を鮮明に映し出す一枚の写真のようなものだった。
ここから毎年積み重ねられるKHAの歴史は、韓国ヒップホップの批評的言語を育てる場としても機能していくことになる。
2017年に聴いておきたいアルバム・トラック
KHAの受賞作品以外にも、2017年の韓国ヒップホップシーンを彩った重要な作品は多数ある。
딥플로우(Deepflow)はこの年も精力的なリリースを続け、ベテランの貫禄を見せつけた。
Hi-Lite Recordsからは팔로알토(Paloalto)が安定した活動を続け、レーベルとしての存在感を示した。
Young Seoの活躍も2017年のシーンを語る上で欠かせない。
Justhisとともに若手世代の実力を証明した一人として、シーンに新しい風を吹き込み続けた。
また블락비(Block B)のジコ(ZICO)は、アイドルとヒップホップの橋渡し役として2017年も旺盛な活動を続けており、DEANとのコラボ「D (half moon)」ではその才能の多面性を示した。
2017年の韓国ヒップホップシーンで特に注目すべきムーブメントの一つが、クルー文化の深化だ。
ILLIONAIRE Records、AOMG、Hi-Lite Recordsといった既存の主要レーベルが各々の色を確立する一方で、より小規模な仲間同士のコラボレーションが活発化した。
この流れは翌年以降のクルーアルバムブームの前触れでもあった。
韓国ヒップホップにおける批評的言語の発展
KHAの誕生と同時期に、韓国ヒップホップに関する批評的な言語も急速に発展した。
Hiphopplayaのようなメディアが年間ベストアルバムや年間ベストトラックを発表するようになり、個々のリスナーも自分なりの評価軸を持って音楽を語るようになった。
こうした批評文化の成熟は、単に音楽を楽しむだけでなく、その背景にある文化や社会との関係を理解したいというリスナーの欲求を反映していた。
日本のヒップホップファンにとっても、韓国のシーンに本格的な批評文化が根付いたことの意義は大きい。
日本語での情報が限られていた時代から、徐々に韓国語メディアの充実とともに海外のファンが韓国ヒップホップにアクセスしやすくなってきた。
KHAの受賞結果は、毎年その年の韓国ヒップホップを理解するための「地図」のような役割を果たしてくれる。
2017年という起点から振り返ると、KHAはその後の数年間で韓国ヒップホップシーンの公式的な評価軸として定着し、アーティストたちにとっても受賞を目指すべき権威ある賞となった。
그루비룸のプロデューサー連覇、Jay Parkのアーティスト連覇など、一度認められた実力者が翌年も評価される継続性がシーンの安定感を示す一方、毎年登場する新人の存在がシーンの活力を示し続けた。
2017年のシーンを彩ったR&Bの隆盛
2017年の韓国音楽シーンで特筆すべきもう一つの動きは、オルタナティブR&Bの本格的な開花だ。
DEANが「D (half moon)」でKHAのR&Bトラック賞を受賞したことに象徴されるように、伝統的なR&Bの枠を超えた新しいサウンドが市民権を得た年だった。
Crush、Gray、offonoffといったアーティストたちがそれぞれ独自のサウンドを追求し、韓国R&Bは従来のバラード的な甘さとは一線を画す成熟した表現領域へと進化した。
Jay ParkがR&Bアルバム賞を受賞した「Everything You Wanted」も、こうしたシーンの盛り上がりの中に位置づけられる作品だ。
Jay Park自身がR&Bシンガーとしての顔とラッパーとしての顔を自在に使い分けながら、どちらのコミュニティからも認められる存在であり続けたことは、ジャンルの垣根が曖昧になっていく時代のあり方を先取りしていた。
KHAがヒップホップアルバム・トラック部門と並んでR&Bアルバム・トラック部門を設けたことも、この時期のシーンの実態を反映していた。
ヒップホップとR&Bは互いに影響し合いながら発展し続けており、一つの賞でどちらかだけを語ることは2017年のシーンを正確に捉えることにはならなかったからだ。
こうした視点の広さが、KHAが批評家からも評価される理由の一つとなっている。
ヒップホップとR&Bの融合は音楽的な側面だけでなく、コミュニティとしての繋がりにも影響を与えた。
AOMGという一つのレーベルの中に、Jay ParkというR&Bシンガー兼ラッパー、Simon Dominicというラッパー、そしてGrayというプロデューサー兼ラッパーが共存するモデルは、単一ジャンルにこだわらない多様性の象徴だった。
こうしたレーベルの体制がシーン全体に影響を与え、韓国ヒップホップの裾野を着実に広げていった。
第1回KHAは受賞部門の設計においても先見性を持っていた。
今後シーンがどのように発展するかを見越した上でカテゴリを設定したとも言え、ヒップホップとR&Bを並列に扱う姿勢は後の韓国音楽産業全体のトレンドを先取りするものだった。
2017年に生まれたこの評価の枠組みが、それ以降の韓国ヒップホップとR&Bシーンを語る共通言語を提供してきたことは、KHAの最大の功績の一つと言えるだろう。
マルのひとこと
初回のKHAで넉살が最高賞を取ったことは、僕にとって「この賞は本物だ」と思わせる出来事だった。
テレビに出るかどうかじゃなく、音楽の質で評価が決まるシーンが韓国にもあるんだと実感して、「小さなものたちの神」という言葉の重さをアルバムを聴きながら改めて噛み締めた記念碑的な年だと今でも思っている。



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