▶ アーティストページ:(▶ KATSEYEと僕。)
韓国のシステムが、アメリカの街角で最初の産声をあげた5曲。
目次
- 作品概要
- KATSEYEとは何者か
- メンバー紹介
- アルバムの流れ
- 収録曲
- 総評
- 余談
- HYBEとGeffeの実験が意味するもの
- 『SIS』から『BEAUTIFUL CHAOS』へ
- KATSEYEというグループが問いかけるもの
- マルのひとこと
作品概要
- タイトル:SIS (Soft Is Strong)
- アーティスト:KATSEYE(캣츠아이/キャッツアイ/キャッツアイ)
- 形態:1st EP(全5曲・約11分46秒)
- 発売日:2024年8月16日
- 所属:HYBE × Geffen(HYBE UMG)
- ジャンル:ポップ、オルタナポップ、コンテンポラリーR&B、エレクトロポップ
- 先行公開:Debut/Touch
- タイトル曲:Touch/My Way(ダブルタイトル)
- 成績:ビルボード200 最高98位(初登場119位から上昇)/ビルボードEmerging Artists 1位
『SIS』は「Soft Is Strong(やわらかさは、強さ)」の略。
柔らかさと強さは相反しない、という6人の宣言が、そのままタイトルになっている。
わずか5曲・12分弱。
でもこれは、HYBEがアメリカでK-POPのシステムを走らせた、その”実験の第一歩”の記録だ。
プロデューサー陣を見れば、その本気度がわかる。
Ryan Tedder(ライアン・テダー/OneRepublicのフロントマン)、Cashmere Cat、Blake Slatkin……西洋ポップのトップ作家たちが、HYBEの作曲家と机を並べている。
KATSEYEとは何者か
KATSEYEを理解するには、まず「どうやって生まれたか」を知る必要がある。
2023年、HYBEとGefffen Recordsは共同で、画期的なオーディション番組を立ち上げた。
番組名は『Dream Academy』。
世界中からオーディションを受けた少女たちの中から、K-POPの훈련(トレーニング)システムでグループを作り、そのままアメリカ市場でデビューさせる、という企画だ。
요컨대(つまり)、K-POPの製造ラインをアメリカの土の上に持ってきた、とてつもなくトリッキーな試みだった。
최종(最終)メンバーは6人。
Lara(ラーラ/フィリピン系スイス人)、Manon(マノン/フランス系アメリカ人)、Megan(メーガン/中国系アメリカ人)、Daniela(ダニエラ/メキシコ系アメリカ人)、Sophia(ソフィア/韓国系アメリカ人)、Yoonchae(ユンチェ/韓国人)。
6カ国にまたがる、まさに”多国籍軍”の構成だ。
彼女たちは、韓国のアイドル練習生と同じプログラムで、歌・ダンス・トレーニングを積んだ。
ところが目指す市場はアメリカ。
韓国語のアルバムを作る必要はなく、英語で、しかしK-POPの방법론(メソッド)で勝負する。
このねじれが、KATSEYEという存在のユニークさであり、難しさでもある。
メンバー紹介
Lara リードボーカル
フィリピンとスイスのルーツを持つ、グループの歌の柱の一人。
クリアで伸びやかな音域と、感情をのせる表現力が持ち味だ。
『Dream Academy』でも目を引く存在感を示し、최종(最終)選抜を勝ち取った。
「Touch」でのささやくような歌声は、この曲をただのダンスポップにせず、夢見心地なポップ作品に昇華させた立役者の一人だ。
Sophia メインダンサー・ボーカル
韓国系アメリカ人として、K-POPの文化的背景とアメリカのポップカルチャーを自分の中に持つメンバー。
ダンスの표현력(表現力)に定評があり、ステージ上でのパフォーマンスに力強さをもたらす。
6人の中で最もK-POPのアイドル的な요소(要素)を体現している、という声もある。
Yoonchae ボーカル
6人の中で唯一の韓国人メンバー。
K-POPトレーニングの文脈を最も深く身に持ち、グループの중심(中心)として機能する存在だ。
アメリカ市場に向けたグループの中に、韓国のアイドル文化の핵심(核心)を宿している。
「My Way」での歌声が、特に評価されている。
Megan ボーカル・ダンス
中国系アメリカ人として、アジア系アメリカ人の視点をグループに持ち込む。
歌とダンスの両面で安定したパフォーマンスを発揮し、グループの底力を支えるメンバーだ。
KATSEYEがアメリカのポップシーンで受け入れられた背景には、多様な文化的背景を持つ6人が、共通のK-POPメソッドで一つになれたことがある。
そのことを最もわかりやすく体現しているのが、メーガンのような存在だ。
Daniela ボーカル・パフォーマー
メキシコ系アメリカ人として、ラテン系の情熱とK-POPの規律を兼ね備える。
ビジュアル面でも存在感を示し、KATSEYEというグループの多国籍な魅力を底上げしている。
Manon ボーカル(活動休止中)
フランス系アメリカ人メンバーで、『SIS』リリース時は活動休止中だった。
ただし「I’m Pretty」のバックボーカルという形で、音源には名を残している。
後に活動を再開し、グループの重要な一員として復帰する。
アルバムの流れ
1曲目「Debut」で、いきなり自信満々に名乗りを上げる。
2曲目「Touch」で、ふっと力を抜いて、いちばん柔らかい必殺技を出す。
3曲目「My Way」で、ピアノを鳴らして”わたしたちのやり方”を宣言し。
4曲目「I’m Pretty」で、強がりの裏の本音をこぼし。
5曲目「Tonight I Might」で、若さのアクセルを踏み抜いて終わる。
つまりこの一枚は、「強い(Strong)」で始まって、「柔らかい(Soft)」を挟んで、また「強い」で閉じる。
タイトルどおり、SoftとStrongを行ったり来たりする12分。
まだ荒削りで、名刺代わりの一枚だけど、”Touch”というとんでもない原石が、ちゃんと真ん中に光っている。
収録曲
01. Debut(デビュー) ※先行公開
作曲・プロデュース:Ryan Tedder / Tyler Spry / Grant Boutin / Omer Fedi
いきなりの、Ryan Tedder。
BeyoncéやAdeleに名曲を書いてきた、あのOneRepublicのライアン・テダーが、KATSEYEの記念すべき第一声を手がけている。
「一度わたしを好きになれば、二度目はもっと好きになる」初っ端から、この自信。
弾けるサマーソングで、6人が「はじめまして、わたしたちKATSEYEです」と胸を張る。
名刺、というより宣戦布告に近い。
「Debut」の歌詞には、KATSEYEのデビューそのものへの興奮と、あえて臆さない姿勢が込められている。
이 노래(この曲)が先行公開されたとき、K-POPファンの間では「アメリカで同じことをやろうとしている」という驚きと、「ちゃんと西洋ポップとして成立している」という評価の両方が広がった。
HYBEの仕掛けが、少なくとも最初の一手として機能した、その証拠だ。
02. Touch(タッチ/触れて) [TITLE] ※先行公開
作曲・プロデュース:Blake Slatkin / Cashmere Cat / Omer Fedi / Taka Perry ほか
これが、実質の出世作だ。
ノルウェーの奇才Cashmere Catらが作った、柔らかくて夢見心地なポップ。
「Touch」というワードが、サビでとろけるように反復する。
派手じゃないのに、一回聴くと頭から離れない。
実際この曲は、TikTokとラジオでじわじわ火がつき、ビルボードのChartbreakerに取り上げられるほどの”静かな大ヒット”になった。
「Soft Is Strong」というタイトルの正しさを、いちばん証明した一曲。
やわらかい歌が、いちばん強かった。
「Touch」のプロデューサーCashmere Catは、Ariana GrandeやWeekendと仕事をしてきた人物だ。
彼が得意とする、空間系の繊細なエフェクトと、柔らかく浮遊するリズムが、この曲で最大限に発揮されている。
KATSEYEの6人の声質、特にLaraのクリーンな高音と絡み合う形で、まるで夢の中で流れているような空気感が生まれた。
K-POPのアイドルポップ文脈と、西洋のドリームポップ的な感触が、「Touch」という一曲の中でうまく混ざり合っている。
この融合の成功が、この曲が世界中のポップリスナーに届いた最大の理由だ。
03. My Way(マイ・ウェイ/わたしのやり方) [TITLE]
作曲・プロデュース:”hitman” bang(방시혁) / Slow Rabbit / Federico Vindver ほか
そして、”hitman” bangつまりHYBE議長・방시혁/パン・シヒョク本人。
BTSを世界に押し上げた男が、KATSEYEのもう一本のタイトル曲を書いている。
飾らないピアノに、柔らかいロックのドラムが乗る、オルタナポップ・バラード。
「新しい時代と世代の声になる」という6人の覚悟が、歌詞に滲む。
派手なフックで殴るのではなく、静かに芯を通してくるあたり、いかにもバン・シヒョクだ。
Touchが”世界”への名刺なら、My Wayは”自分たち”への誓いだ。
「My Way」の歌詞には、「自分たちのやり方で世界に切り込む」という意志が込められている。
KATSEYEというグループが、K-POPのシステムを使いながらも、アメリカのポップシーンに真っ向から挑む、という姿勢がそのまま曲になっている。
방시혁は、BTSに「방탄(防弾)」という名前でソウルの路地から世界へ向かわせた。
今度は英語で、アメリカの土の上から、6人に同じ覚悟を歌わせた。
「My Way」を聴くと、その本気度が伝わってくる。
04. I’m Pretty(アイム・プリティ/わたしはきれい)
作曲・プロデュース:Digital Farm Animals ほか
ここでちょっと、本音がこぼれる。
コンテンポラリーR&Bにダンスポップを混ぜた、重い808ドラムの効いた一曲。
恋に傷ついたのに「平気だよ」と強がる。
でも本当は、全然乗り越えられていない。
その揺れを、「pretty(きれい/かなり)」の二重の意味で言い当てる歌詞が、地味に巧い。
休止中のマノンが、バックボーカルで参加している。
強がりの下に、ちゃんと柔らかい心臓が鳴っている。
05. Tonight I Might(トゥナイト・アイ・マイト/今夜、やっちゃうかも)
作曲・プロデュース:Jason Gill / Oskar Widén / 13 ほか
締めは、アクセル全開のエレクトロポップ。
反抗と冒険の匂いがぷんぷんする、青春そのものの一曲だ。
力強いサビは、もうライブでファンと一緒に叫んでいる画が浮かぶ。
名刺の最後を、行儀よくではなく、若さの暴走で閉じる。
このバランス感覚が、いい。
総評
正直に言えば、『SIS』は”完成品”ではない。
翌年の『BEAUTIFUL CHAOS』(Gnarly/Gabriela)で見せる爆発力に比べると、まだ助走の一枚だ。
でも、この5曲の意味は、音数や完成度では測れない。
HYBEがアメリカのGeffenと組んで、K-POPの育成システムを本場に持ち込み、多国籍の6人に、西洋ポップの一流作家陣を組ませる。
その巨大な実験の”最初の音”が、ここに全部詰まっている。
Ryan Tedderが名刺を書き、방시혁が誓いを書く。
この座組み自体が、もう事件だ。
そして何より、「Touch」がある。
派手じゃない、やわらかい歌で、ちゃんと世界のチャートに触れてみせた。
「Soft Is Strong」。
このタイトルは、スローガンじゃなくて、この一枚が実際に証明した事実だった。
『SIS』の成功は、K-POPの方法論が、韓国語や韓国文化という특수성(特殊性)を外しても機能する、という証明でもある。
BTSが韓国語で世界に届いたとき、多くの人が「これは奇跡だ」と言った。
KATSEYEは、그 방법론(その方法論)を英語で再現しようとした。
『SIS』は、その試みが決して間違いではないことを、5曲12分で示した。
余談
マルの好きな曲順、いきます。
1位:Touch。
文句なし。
やわらかいのに、いちばん強い。
うりぬん的にも、この曲が全部の答え。
2位:My Way。
방시혁が書いた「誓い」のほう。
派手じゃないけど、聴くたびにじわっとくる。
以下、Debut/Tonight I Might/I’m Pretty。
Debutの”自信満々っぷり”はクセになるし、Tonight I Mightのライブ感も好き。
正直、通して聴くと「まだこれから化けるな」という一枚ではある。
完成度でいえば、次の『BEAUTIFUL CHAOS』のほうが断然上。
ハジマン、名刺には、名刺にしかない初々しさがある。
「はじめまして」の緊張と自信が、12分にぎゅっと詰まっている。
グループの、いちばん最初の声。
それを聴けるだけで、この一枚には価値がある。
だから、まずここから。
そして次は、彼女たちが世界を殴りにいく『BEAUTIFUL CHAOS』へ。
KATSEYEという実験が続いてきたことで、K-POPという音楽の文法が、一つの言語や一つの市場を超えられるかどうか、という問いに答えが近づいている。
その問いへの、最初の返事が『SIS』だった。
「Soft Is Strong」。
やわらかい答えは、いつもいちばん強い。
HYBEとGeffeの実験が意味するもの
『SIS』を語るとき、KATSEYEというグループが「どういう実験の産物か」を理解しないと、この5曲の意味は半分しか伝わらない。
2010年代後半、BTSの世界的成功をきっかけに、K-POPのビジネスモデルは根本から変わった。
韓国語の曲が、英語圏の市場を席巻した。
それまで「アジア音楽は英語圏では売れない」という常識があったが、BTSはその常識を崩した。
HYBEが次に考えたのは、「では、K-POPのシステムそのものをアメリカに持ち込んだらどうなるか」という問いだった。
育成方法、コンセプト設計、ファンダム形成、コンテンツ戦略。
これらをすべてそのままアメリカで走らせたら、英語圏市場にどう刺さるのか。
その答えを出すために生まれたのが、KATSEYEという실험체(実験体)だった。
6人の多国籍メンバーを、韓国のK-POPシステムで育てて、アメリカ市場に投入する。
この試みの面白いところは、K-POPが「韓国語で歌うこと」に縛られていないことを証明しようとした点だ。
BTS以降、多くの人が「K-POPが成功したのは韓国の文化的魅力があったから」と解釈した。
しかしHYBEは「いや、K-POPが成功したのはシステムが優れていたからだ」という仮説を立て、その証明をKATSEYEに託した。
『SIS』は、そのシステムが初めて동작(動作)した記録だ。
결과적으로(結果的に)、KATSEYEは「Touch」という一曲で、仮説の正しさをある程度証明した。
韓国語ではなく英語で、韓国人でもない6人が、K-POPのシステムで作った曲が世界のチャートに届いた。
この事実は、K-POP産業の可능성(可能性)を大きく広げた。
そして同時に、「K-POPとは何か」という問いを、より複雑で興味深いものにした。
『SIS』から『BEAUTIFUL CHAOS』へ
『SIS』は명백히(明らかに)、序章だ。
KATSEYEはこのEPで「私たちはここにいる」と宣言し、「Touch」という名刺を世界に渡した。
そして翌年の2025年、2ndアルバム『BEAUTIFUL CHAOS』で、本格的な爆発を見せる。
『BEAUTIFUL CHAOS』では、より大胆なサウンド、より成熟したパフォーマンス、そして「Touch」で証明した”柔らかい強さ”をさらに推し進めた楽曲が並ぶ。
「Gnarly」「Gabriela」といったトラックは、K-POPのアイドルポップとアメリカのポップロックが完全に融合した一枚だ。
『SIS』の5曲が”名刺”なら、『BEAUTIFUL CHAOS』は”本編”といえる。
しかし、「Touch」という曲の特別さは『BEAUTIFUL CHAOS』以降も揺るがない。
多くの入門者が、KATSEYEを知るきっかけになった一曲。
やわらかくて、強い。
タイトル通りの曲だった。
KATSEYEというグループは、まだ途中だ。
HYBEとGeffenの実験は続いており、彼女たちは今もそのシステムの中で成長している。
『SIS』の5曲12分は、그 시작(その始まり)に過ぎない。
でも、始まりには始まりにしかない初々しさがある。
「はじめまして」の声を聴けるこの一枚は、これからKATSEYEを知る人にとっての、最初の扉だ。
KATSEYEというグループが問いかけるもの
KATSEYEの存在は、K-POPファンに一つの問いを突きつけた。
「K-POPとは、韓国語で歌う音楽なのか。
それとも、韓国が発明したシステムで作られた音楽なのか。
」と。
BTSが世界を動かしたとき、多くの人は「韓国文化の魅力が届いた」と解釈した。
HYBEは逆のことを考えた。
「우리가(私たちが)発明したシステムが届いたのだ」と。
そのシステムを英語圏で、英語で再現すれば、もっと多くの人に届くはずだ、と。
KATSEYEは、その問いへの現在進行形の答えだ。
6人の다국적(多国籍)メンバーが、韓国式のトレーニングと創作プロセスを経て、英語でポップを歌う。
そこに「K-POPっぽさ」は確かにある。
でも、それは韓国語でも韓国人でもなく、システムが生み出した何かだ。
「Touch」が”静かな大ヒット”になったのは、このシステムが機能した証拠だ。
派手な宣伝なしに、TikTokとラジオでじわじわ広がった。
BTS以降のK-POPファンダムの動き方、コンテンツの広がり方が、英語圏のポップ市場でもそのまま使えた。
これは意外に大きな発見だった。
マルのひとこと
「Touch」を初めて聴いたとき、僕はこれがK-POPだとは思わなかった。
ただの良い曲だと思った。
そしてHYBEの実験の最初の音だと知ってから、余計に好きになった。
ただの、良い曲だと思った。
そして後から「これがHYBEの実験の最初の音か」と知って、余計に好きになった。
やわらかい曲が世界に届く、という事実は、何度確認しても嬉しい。
しかもそれを、K-POPのシステムで作った6人の多国籍グループが証明した。
K-POPは言語を超えた。
それだけで、この一枚には十分な価値がある。



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