『Epik High Is Here 上』を聴いた日。

K-HIPHOP

▶ アーティストページ:Epik High

「에픽하이エピカイ イズ ヒア(Epik High Is Here / エピカイはここにいる)」というアルバムタイトル。
2022年、コロナ禍の最中に、彼らは存在を宣言した。
HYBE(旧Big Hit Entertainment)への移籍後初のアルバムとして届けられたこの作品は、エピカイのキャリア最長のブランクを経てのカムバックとなった。

2017年の「We’ve Done Something Wonderful」から約4年半。
世界はパンデミックによって変貌し、人と人が会えない日々が続いた。
そういう時代に、エピカイは「ここにいる」と言った。
物理的に会うことが難しくなった時代に、存在を主張することの重みは以前とは違う意味を帯びている。
「Epik High Is Here」という四文字は、単なるアルバムタイトルではなく、コロナ禍を生き延びた一つの証明だった。

HYBEへの移籍は、韓国音楽産業における一つの象徴的な出来事でもあった。
BTS、TOMORROW X TOGETHER、SEVENTEENなどを擁するK-POPの最前線に、韓国語ヒップホップのパイオニアであるエピカイが加わる。
両者の方向性が交差することで生まれる化学反応を、音楽ファンは期待した。
その期待に応えながら、同時にエピカイらしさを損なわない作品を作る。
そのバランスこそが、Part 1とPart 2の二部作制作の背景にあったのだと思う。


【目次】
1. アルバム概要
2. リリース背景とHYBE移籍
3. 収録曲解説
4. アルバムの意義と評価
5. マルのひとこと


アルバム概要

項目内容
アーティストEpik High (エピカイ)
アルバムタイトルEpik High Is Here (Part 1)
リリース年2022年
レーベルHYBE / Big Hit Music
収録曲数10曲
主なフィーチャリングHEIZE、CL、Zico、B.I、Kim Sawol、Miso、G.Soul
プロデュースTablo、Mithra Jin、DJ Tukuyo

リリース背景とHYBE移籍

エピカイがHYBEと契約した2021年当時、BTSの所属レーベルに韓国語ヒップホップの原点とも言えるグループが加わるというニュースは、韓国音楽ファンに衝撃を与えた。
しかしその選択には明確な理由があった。
タブロはインタビューで「HYBEが私たちに完全な創作の自由を与えてくれる」と語っており、レーベル移籍が単なる商業的判断でないことを示した。

アルバム制作はパンデミックの最中に行われた。
ソーシャル・ディスタンスが義務化され、コラボレーションのためにスタジオに集まることすら難しい状況の中、それでも音楽が生まれた。
「Epik High Is Here」というタイトルには「私たちはまだここにいる」という生存の確認と同時に、「私たちはここにいるから、あなたも大丈夫だ」というリスナーへのメッセージが込められている。

Part 1とPart 2の二部作という形式は、コロナ禍という「分断された時代」を反映している。
一枚でまとめることもできたはずの作品を二つに分けることで、前半と後半で異なる感情のトーンを持たせることに成功した。
Part 1がより「外向き」で社会的なメッセージを持つとすれば、Part 2はより「内向き」で個人的な記録の性格が強い。
両方合わせて初めて「Epik High Is Here」という完全な物語になる。

この二部作のゲスト陣を眺めると、エピカイが意図的に「生存者の連帯」を構築していることがわかる。
CL(2NE1解散後の復帰)、B.I(薬物問題からの再起)、Zico(Block B活動休止後のソロ活動)。
それぞれが所属組織との摩擦や個人的な困難を経てきたアーティストたちが、「Epik High Is Here」という旗の下に集まった。
そのコンセプトは偶然ではなく、タブロの明確な意図から来ている。

収録曲解説

01 Lesson Zero

アルバムの幕開けを担うこの曲で、タブロは「学ぶ」よりも「忘れる」ことの重要性を問いかける。
宗教、メディア、社会規範。
幼いころから刷り込まれてきた価値観のすべてに疑問を投げかけ、「ゼロに戻れ」と訴える。
重々しいピアノと歪んだボーカルに乗せて始まる英語ラップは、怒りよりも疲弊感に満ちており、声高な叫びではなく静かな撤退として響く。

エピカイ・イズ・ヒア制作ドキュメンタリーの中でタブロは「新しいことを学ぶのではなく、これまで学んできたことを問い直す時期だ」と語った。
パンデミックという世界的な停止が彼らに与えたのは、そういう立ち止まりの時間だったのだろう。
冒頭からこれだけ静かに、これだけ根本的な問いを投げてくるアルバムオープナーは珍しい。
「Lesson Zero」という曲名は、何かを学ぶ前に、まず何もない場所に戻ることを指している。

02 Based on a True Story feat. HEIZE (ヘイズ)

「내ネ 얘기イェギ 같아ガッア」は「まるで自分の話みたい」という意味だ。
ニュースで知らない人の悲しみを見るとき、それがなぜか自分のことのように感じられる。
タブロはインタビューで「ニュースを見ていると、知らない人の話なのに涙が出ることがある」と語っている。
その感覚を、ジャズピアノのサウンドに乗せた曲だ。

HEIZEの起用は「繊細な共感力を声で体現するための選択」だったという。
孤立していた2021年に、他人の痛みを自分のものとして受け取る曲が生まれた。
コロナ禍で誰もが自分の痛みだけで精一杯だった時代に、「他者への共感」を歌ったことは、このアルバムの本質を表している。
HEIZEの透明な声が、ジャズの上で揺れながら、見知らぬ誰かの悲しみをすっと運んでくる。

03 Rosario feat. CL, Zico (ジコ)

「Rosario」はCLとZicoを呼んだ戦闘的な曲だ。
フラメンコギターのイントロから始まる。
ミスラ・ジンはこう歌う。
「Even if I spend all my life working hard to build a tower / The world would tear it down / But I lay yet another stone」。
一生かけて塔を建てても、世界は壊す。
それでも俺はまた石を積む。

2NE1解散後に復帰したCL、Block B出身のZico、そしてエピカイ。
「生存した者たちの宣言」として三者が結集した曲だった。
それぞれが所属組織との摩擦や個人的な困難を経てきたアーティストたちが、「それでも俺はまた石を積む」という言葉で繋がる。
フラメンコのリズムとヒップホップのビートが合わさることで、戦いのイメージが文化を超えて普遍化される。

04 Acceptance Speech feat. B.I (ビーアイ)

「수상소감スサンソガン」は「受賞スピーチ」を意味する。
「먹구름도モクグルムド 구름이야グルミヤ(黒い雲も、雲だ)」「쓴웃음도スンウスムド 웃음이야ウスミヤ(苦い笑いも、笑いだ)」。
薬物スキャンダルから復帰したB.Iとタブロ。
傷ついた者同士が書いた「それでも立っている」という歌詞だった。

「웃을ウスル 수ス 없는オプヌン 세상이라도セサンイラド 살아가야サルアガヤ 하니까ハニッカ(笑えない世界でも、生きていかなければならないから)」という歌詞が核心だ。
「受賞スピーチ」というタイトルは逆説だ。
これは華やかな受賞の場での感謝ではなく、批判や傷を乗り越えた末に「まだここにいる」と言うための言葉だ。
傷が、ここでは勲章のように語られる。

05 Leica feat. Kim Sawol (キム・サウォル)

ライカはカメラのブランド名だ。
この曲では、「スタンプで埋まったパスポートのような」実績を挙げながらも、その瞬間を本当に生きていたのかという問いが根底に流れる。
世界中をツアーで旅し、ステージに立ち続けてきたエピカイのメンバーが、記録することと体験することの間で揺れる内省を綴る。

キム・サウォルの繊細なボーカルが、ノスタルジックな空気を柔らかく包む。
手に入れた景色は確かに美しい、でも写真に撮った瞬間にもう「過去」になってしまう。
そういうアーティスト特有の記憶の儚さが、ライカという道具を通して語られる。
積み重ねてきた実績への誇りと、それでもすり抜けていった時間への惜しみが、静かに共存している一曲だ。

06 In Self-Defense feat. Woo Won-jae, Nucksal, Changmo

ジャズベースと凶暴なヒップホップビートが絡み合う中、四人のラッパーが「自己防衛」というテーマのもとに集結する。
それぞれまったく異なるスタイルとリズム感を持つ三人のゲストが次々とバトンを渡していく構成で、エピカイがいかに幅広いラッパーに影響を与えてきたかを自然に示す作りになっている。

批判や攻撃への反撃ではなく、ただ自分の音楽を守り続けることへの宣言。
それがこの曲の「自己防衛」だ。
アルバム中で最もアグレッシブなエネルギーを持ちながら、その根底にあるのは怒りよりも矜持に近い感情だ。
Woo Won-jae、Nucksal、Changmoという同時代のラッパーたちとの対話が、韓国ヒップホップの現在地を感じさせる。

07 True Crime feat. Miso (ミソ)

一見ラブソングとして聴こえるが、聴き進めるにつれて社会へのメッセージが浮かび上がる。
愛にラベルを貼り、定義し、ジャンル分けしようとする社会への静かな抵抗だ。
「愛は、それがある場所に存在する」というシンプルな真実を、複雑な言葉を使わずに届ける。

EDMライクなシンセサウンドにミソの透明なボーカルが乗る構成は、重いメッセージを軽やかに運ぶ。
「真の犯罪」とは何か。
誰かを愛することに罪悪感を持たせる社会の構造そのものを指しているのだ。
ミソの声が曲全体に開放感をもたらし、主張が説教臭くならないようにうまく働いている。

08 Social Distance 16

パンデミック下のソウルを生きた記録だ。
かつては愛の言語だったり、プライバシーへの配慮だったりした「触れないこと」が、感染対策という名のもとで義務となった日々を綴る。
タイトルの「16」は、ある種の距離感(物理的にも感情的にも)を示す数字として機能する。

ノアの方舟を思わせる聖書的なイメージを取り込みながら、嵐の中でも生き延びるための信仰について問いかける。
日常の当たり前がいかに当たり前でなかったかを気付かせる曲で、アルバム中で最もドキュメンタリー的な性格を持つ。
「触れること」の意味を、これほど深く考えさせてくれる曲はそう多くない。
コロナ禍を経験した人間として、この曲は時代の記録として長く残ると思う。

09 End of the World feat. G.Soul (Gソウル)

「罪の重さは平等ではない」。
ミスラ・ジンのリリックは、富によって歪められた正義のシステムを淡々と告発する。
不平等な司法、腐敗、権力者への忖度。
アコースティックギターとトラップが奇妙に共存するプロダクションの上で、社会批判が静かに積み上げられる。

G.ソウルが加わると、曲のトーンはシフトする。
批判から赦しへ、告発から無条件の愛へ。
世界の終わりに何が残るかを問う曲が、意外なほど温かい場所に着地するのは、G.ソウルのソウルフルな声が担っているからだ。
エピカイの社会派とG.ソウルのR&Bが、一曲の中で奇跡的に折り合いをつけている。

10 Wish You Were

アルバムの締めくくりは、パンデミックが人々の心に残した空白への手紙だ。
「みんなが君に会いたがっている」。
行動制限の中、自分の感情を受け入れること、誰かを想い続けることの正当性を静かに肯定する。
大きな主張はなく、解決も提示しない。

ただ、それでいいのだというやさしい許可を与えてくれる。
誰もが「帰れない場所」を持っていた時代に、「会いたい」と言うことすら贅沢に感じた日々。
その感情をこれほど正確に言葉にできる人がいることへの安堵が、聴後感として残る。
Part 1の締めくくりとして、これ以上ない静かな終止符だ。

アルバムの意義と評価

「Epik High Is Here Part 1」は、韓国音楽産業の様々な転換点と重なるアルバムだ。
HYBEというK-POPの中枢への移籍、コロナ禍というグローバルな危機、そしてエピカイ自身の長期ブランクの後のカムバック。
これだけの文脈を背負いながらも、アルバムは個人の声を失わなかった。

収録されたコラボレーターの顔ぶれも、このアルバムの時代的意味を象徴している。
CL(2NE1解散後の復帰)、B.I(薬物問題からの再起)、Zico(Block B活動休止後のソロ活動)。
それぞれが何らかの困難を乗り越えてきたアーティストとの共演は、意図的な「生存者の連帯」として機能する。
「私たちはここにいる」というタイトルが、より多くの声によって確認されている。

音楽的には、フラメンコ(「Rosario」)、ジャズ(「Based on a True Story」)、EDM(「True Crime」)、アコースティック(「End of the World」)と、ジャンルを跨いだ多様なサウンドが詰め込まれている。
それでも「Epik High Is Here」という一貫したコンセプトの下に統一感が保たれている。
二十年近いキャリアを持つアーティストが、なぜ新しいことができるのか。
このアルバムがその答えを示している。

コロナ禍の音楽が持つ記録としての価値

「Epik High Is Here Part 1」は、コロナ禍という歴史的な時代を音楽で記録した作品でもある。
パンデミックは多くのアーティストにとって活動の停止を意味したが、エピカイはこの時期に最も個人的で最も社会的な作品を生み出した。
「Social Distance 16」「BRB」「Wish You Were」というトラック群は、2020年から2021年の日々の証言として機能している。

後の世代がコロナ禍を学ぶとき、教科書の数字だけでは理解できない「その時代に生きた感覚」を、音楽から受け取ることができる。
エピカイがパンデミックを音楽化したことの価値は、時間が経つほどに大きくなるだろう。
特定の時代の空気を正確に捉えながら、普遍的な人間の感情と接続する。
それがエピカイの一貫した強みだ。

「Rosario」に参加したCLは、このアルバムリリース前後にsoloist活動を本格的に再始動させた。
2NE1の解散(2016年)から数年のブランクを経ての復帰だった。
エピカイが「Rosario」にCLを招いたことは、単なる豪華ゲストの登場ではなく、彼女の復帰を音楽的に歓迎するという意味も持っていた。
「生存者の連帯」という言葉がこれほど具体的に音楽で表現された曲は、他にないかもしれない。

Zicoについても同様のことが言える。
Block Bとして活動しながら、ソロアーティストとしても高い評価を受けてきたZicoが「Rosario」に参加することで、この曲は韓国ヒップホップの世代を超えた対話になった。
タブロ世代(2000年代初期)とZico世代(2010年代)が一つの曲で声を重ねる。
韓国ヒップホップの20年の歴史が、この三分間に凝縮されている。

HYBE移籍の効果は、アルバムの制作環境だけでなく、届く聴衆の幅にも現れた。
BTSのファン層を通じてエピカイを初めて知った若いリスナーが、このアルバムから過去のディスコグラフィーを遡って聴くようになった。
逆に、エピカイのオールドファンがHYBEという場所を通じてBTSなどの音楽に触れるきっかけにもなった。
そのような双方向の発見が、「Epik High Is Here」が韓国音楽シーン全体に与えた影響の一つだ。

コロナ禍の孤立が呼び起こした音楽的連帯

2022年は、パンデミックで分断されていた人々が少しずつ外へ出始めた年だった。
その時期に「Epik High Is Here」が届いたことは、偶然ではなかったかもしれない。
孤独の中で音楽を聴き続けた人々にとって、「ここにいる」という宣言は、単なるアルバムタイトル以上の意味を持った。
タブロ、トゥコン、ミスラが「ここにいる」と言うとき、それはリスナーに向かって「あなたもここにいていい」と伝えているように聞こえる。
コロナ禍の孤立が生み出した飢えに、このアルバムは正面から応えた。

フィーチャリングアーティストたちの選び方にも、この連帯の思想は表れている。
HEIZEは繊細な感情表現で知られ、CL(2NE1)はパワフルな存在感を持ち、ZICOはトレンドを生み出す力があり、B.Iは若い世代のリスナーに深く刺さる。
これほど異なる個性を一つのアルバムに集めながら、散漫にならずに一貫したトーンを保てているのは、エピカイの楽曲設計の精巧さによる。
各コラボレーションが「エピカイの曲」として成立しながら、ゲストの個性も消えない。
その絶妙なバランスが、アルバム全体を豊かにしている。

「Epik High Is Here Part 1」は、エピカイが長い空白期間を経て韓国音楽市場に「戻った」ことを証明する作品だ。
しかしそれは単なる復帰ではなく、成熟した視点と時代の空気を取り込んだ進化として届いた。
2003年のデビュー以来、常に自分たちの言葉で社会を語ってきたエピカイが、コロナ後の世界で何を語るかを世界が注目していた。
「Based on a True Story」から「Rain Song」まで、その答えは全曲に渡って丁寧に綴られている。
「Part 1」というサブタイトルが示す通り、これはまだ物語の半分であり、「Part 2」への期待とともに受け取られた。

エピカイが「Epik High Is Here」というタイトルを選んだことには、深い自意識がある。
デビューから約20年、長い沈黙期間を経てHYBEに移籍し、新たな環境で制作した最初の大きな作品。
「ここにいる」という現在形の宣言は、過去のすべてを肯定しながら現在地を指し示す。
タブロ、トゥコン、ミスラの三人が「ここにいる」と言うとき、それはリスナーへの約束でもある。
消えていなかった、変わっていなかった、そして今もここで音楽を作っているという静かな宣言が、このアルバムの最初の一音から最後の一音まで流れている。

マルのひとこと

「Based on a True Story」を初めて聴いたとき、ニュースで見た誰かの話が急に自分の話になる感覚を、タブロが正確に言葉にしていることに驚いた。
あの感覚を「共感」以上のものとして曲にできるのが、エピカイという存在の核心だと僕は思っている。