韓国ヒップホップを、世界のフェスのステージに連れていった人たちがいる。
에픽하이/Epik High。
타블로/Tablo、미쓰라 진/Mithra Jin、디제이 투컷/DJ Tukutz。
この3人組は2003年にデビューして、2016年のコーチェラに韓国人アーティストとして史上初めて立った。
そして今もまだ、新しい音楽を作り続けている。
その間に何があったか。
スタンフォード卒業を「嘘だ」と言われた数年間があった。
YGに入って、YGを出た。
「もうこのグループは終わり」と思われるたびに、また戻ってきた。
20年以上、正規アルバム10枚。
韓国ヒップホップでこれをやり続けているグループは、他にいない。
今日は、そのぜんぶを書く。
- 目次
- 基本情報
- まず、3人を紹介させてほしい
- 결성ギョルソン/前史
- 1집チプ『Map of the Human Soul』(2003) 静かな宣言
- 2집チプ『High Society』(2004) 積み上げの時期
- 3집チプ『Swan Songs』(2005) 初めての爆発
- 4집チプ『Remapping the Human Soul』(2007) 深化
- 5집チプ『Pieces, Part One』(2008) 折り返しの前
- 6집チプ『e』(2009) 自主レーベルで作った最高傑作
- 타진요タジンヨ/タジンヨ事件(2010〜2012) インターネットが作った悪夢
- YGへ、そして『Shoebox』(2014) 最強のビーフ曲
- 코첼라コチェラ/Coachella2016 韓国人、史上初
- 9집チプ『We’ve Done Something Wonderful』(2017) YG最終章
- YGを出て、自分たちの家に戻る
- 10집チプ『Epik High Is Here 上・下』(2021・2022) 10枚目の正直
- EP『Strawberry』(2023)・ミックステープ『Pump』(2024) 現在進行形
- K-POP史における位置づけ
- 韓国でのイメージ
- ディスコグラフィー(主要作)
- 余談
- マルのひとこと
目次
- 基本情報
- まず、3人を紹介させてほしい
- 결성ギョルソン/前史
- 1집『Map of the Human Soul』(2003) 静かな宣言
- 2집『High Society』(2004) 積み上げの時期
- 3집『Swan Songs』(2005) 初めての爆発
- 4집『Remapping the Human Soul』(2007) 深化
- 5집『Pieces, Part One』(2008) 折り返しの前
- 6집『e』(2009) 自主レーベルで作った最高傑作
- 타진요タジンヨ/タジンヨ事件(2010〜2012) インターネットが作った悪夢
- YGへ、そして『Shoebox』(2014) 最強のビーフ曲
- 코첼라コチェルラ/Coachella2016 韓国人、史上初
- 9집『We’ve Done Something Wonderful』(2017) YG最終章
- YGを出て、自分たちの家に戻る
- 10집『Epik High Is Here 上・下』(2021・2022) 10枚目の正直
- EP『Strawberry』(2023)・ミックステープ『Pump』(2024) 現在進行形
- K-POP史における位置づけ
- 韓国でのイメージ
- ディスコグラフィー(主要作)
- 余談
- マルのひとこと
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| グループ名 | 에픽하이 High) |
| デビュー | 2003年10月(1집『Map of the Human Soul』) |
| 所属変遷 | Woollim → Map the Soul Inc.(自主) → YG Entertainment → Ours Co(自主) |
| ジャンル | ヒップホップ、オルタナティブ・ヒップホップ |
| メンバー | 타블로미쓰라 진/ミッスラ・ジン、디제이 투컷 |
| 特記事項 | 2016年コーチェラに韓国人初出演。 正規アルバム10집、活動歴20年超。 韓国ヒップホップ史上もっとも長く、もっとも遠くまで走り続けているグループ。 |
まず、3人を紹介させてほしい
3人がいなければ、エピカイはない。
それぞれが、このグループのなかでしか果たせない役割を持っている。
타블로タブロ 詩人ラッパー
本名:이선웅/Daniel Seonwoong Lee。
1980年7月22日生まれ。
韓国生まれ、幼少期をカナダ・日本・韓国と渡り歩いた。
スタンフォード大学에서/で英文学の학사/学士と창작영어/創作英語의/の석사/修士を、3年半という異例の短期間で취득/取得した。
この「3年半」が、後に彼の人生を揺るがすことになる。
ラッパーとして、作詞・作曲・プロデュースのすべてを担う。
韓国語と英語を自在に行き来する詩的なリリックは、ヒップホップというより文学に近い。
妻は俳優の강혜정/カン・ヘジョン、娘はハルというのも有名な話だ。
미쓰라 진ミスラ ジン/ミッスラ・ジン(Mithra Jin) 重戦車ラッパー
本名:최진/チェ・ジン。
1983年1月6日生まれ。
デビュー前からすでに、韓国メジャーアルバムへのフィーチャリングを11枚以上こなしていたベテランだ。
タブロとはソウルのMovement Crewのフリースタイルバトルで出会い、意気投合した。
3人の中では最も寡黙で、しかしそのフロウには圧倒的な重さがある。
社会批評的なリリックと、揺るぎない存在感。
タブロの詩的な世界観を、ミッスラ・ジンの重量感が支える。
디제이ディジェイ 투컷トゥコッ Tukutz) 縁の下のターンテーブリスト
本名:김정식/キム・ジョンシク。
1981年11月19日生まれ。
1995年からDJ活動を始めた。
韓国のTechnics DJ Schoolで学び、日本のレイブ、ボストン、NYCのクラブやラジオでも回してきた。
グループの음악적/音楽的骨格を支えるのはこの人で、ライブのターンテーブリストとしても他の追随を許さない。
3人の中では最もムードメーカーで、陽気な場の空気を作るのが得意だ。
결성ギョルソン/前史
タブロとミッスラ・ジンが出会ったのは、ソウルのフリースタイルバトルの場だった。
「こいつなら一緒にやれる」と思った瞬間があったはずだ。
そこにDJ Tukutzが加わって、에픽하이 High)が生まれた。
所属したのはWoollim Entertainment/ウリム・エンタテインメント。
今でこそアイドルグループで知られるレーベルだが、当時はまだ小さな会社だった。
2003年10月、1집『Map of the Human Soul/マップ・オブ・ザ・ヒューマン・ソウル』でデビュー。
誰も、このグループが20年続くとは思っていなかっただろう。
1집チプ『Map of the Human Soul』(2003) 静かな宣言
「人間の魂の地図」というタイトル。
デビュー作からこれをやる。
Swan Songs、Run。
代表曲が生まれるのはもう少し後になるが、1집の時点で、エピカイは단순한/単純なヒップホップグループではないことを示した。
サンプリングを多用したビートに、タブロの詩的なリリック。
「知性派ヒップホップ」という評価は、ここから始まった。
2집チプ『High Society』(2004) 積み上げの時期
2004年7月、2집『High Society(ハイ・ソサエティ)』。
High Society、L(O)VE。
着実に、自分たちの世界観を深めていった時期だ。
韓国ヒップホップのシーンで、「エピカイを知らないとモグリ」という空気が생기기/生まれ始めた。
3집チプ『Swan Songs』(2005) 初めての爆発
2005年10月、3집『Swan Songs(スワン・ソングズ)』。
ここで初めて、彼らは全国区になった。
代表曲は「Fly」。
フィーチャリングはAmin.J/アミン・ジェイ。
서정적/叙情的なメロディに乗せて、「날아오르고 싶다/飛び上がりたい」という普遍的な感情を歌った。
ヒップホップを普段聞かない人にも届いた曲だ。
「Paris(パリ)」も同じアルバムに入っている。
エピカイは、音楽的にも지리적/地理的にも、どこへでも行けるグループだった。
4집チプ『Remapping the Human Soul』(2007) 深化
2007年1月、4집『Remapping the Human Soul(リマッピング・ザ・ヒューマン・ソウル)』。
1집のタイトルに「Re-」をつけて戻ってきた。
「Fan(ファン)」と「Wannabe(ワナビー)」。
「Fan」は、アーティストとファンの関係そのものを、複雑な感情のまま歌い切った曲だ。
ファンへの感謝でも、批判でもない。
ただ正直に、「자신을 좋아해주는 사람/自分を好きでいてくれる人」に対する、複雑な感情を書いた。
こういう曲が書けるグループは、当時の韓国にはいなかった。
5집チプ『Pieces, Part One』(2008) 折り返しの前
2008年4月、5집『Pieces, Part One(ピーシーズ・パート・ワン)』。
One、Breakdown。
Woollim時代最後のアルバムになった。
メンバーの군입대/兵役入隊が迫っていた。
このタイミングで、タブロとDJ Tukutzはレーベルを立ち上げることを決める。
Map the Soul Inc./マップ・ザ・ソウル。
自分たちの音楽を、自分たちの手で出すために。
6집チプ『e』(2009) 自主レーベルで作った最高傑作
2009年9月、6집『e』。
Map the Soul Inc.から発表した、자주/自主制作アルバムだ。
「1분 1초/1分1秒」ft. 타루/タル。
「연애소설/恋愛小説」ft. IU。
当時まだ十代だったIUとのコラボは、今聴いても色褪せない。
「연애소설」は、「恋愛を小説のように書いた曲」ではなく、「恋愛が小説みたいに終わっていく」という喪失の歌だ。
この6집が、エピカイのディスコグラフィーの中でも特別な位置を占める理由はもうひとつある。
このアルバムを作った直後から、タブロの人生は暗転する。
타진요タジンヨ/タジンヨ事件(2010〜2012) インターネットが作った悪夢
2010年春。
ネット上に、「타블로에게 진실을 요구합니다/タジンヨ」というコミュニティが生まれた。
主張は単純だった。
「スタンフォードを3年半で학사・석사
학력위조/学歴詐称だ」。
数週間で、数十万人が参加した。
単純な疑惑で終わらなかった。
タブロの家族の住所がネット上に晒された。
兄には脅迫電話が10件以上届いた。
コミュニティの管理者は、韓国系アメリカ人の57歳の男性「whatbecomes」というハンドルの人物だった。
タブロは、証明しなければならなかった。
자신의/自分の학력을/学歴を、자신이/自分が。
韓国紙の중앙일보/中央日報が、スタンフォード大学から成績証明書を直接取り寄せた。
英文学학사창작/修士、確認。
スタンフォードの교수/教授と학적담당/学籍担当が、文書で卒業を証明した。
警察も事実を確認した。
2012年、ソウル中央地裁で判決が出た。
主犯2名に懲役10ヶ月・실형/実刑。
その他6名に懲役8〜10ヶ月・집행유예/執行猶予。
事件は映画にもなった。
ドキュメンタリー『証人(Tablo: Pieces of You)』(2011年)。
NPR、Global Voicesなど海外メディアも大きく報じた。
YGへ、そして『Shoebox』(2014) 最強のビーフ曲
타진요事件と兵役。
그 기간에/その期間に、エピカイは실질적으로/実質的に活動できなかった。
2010年、タブロがYG Entertainmentとソロ契約を結んだ。
2012年7月、ミッスラ・ジンとDJ TukutzもYGと契約。
エピカイ、完全復帰。
7집『99』(2012年10月)で재기/再起を果たし、2014年10月に8집『Shoebox(シューボックス)』。
この中に入っているのが「BORN HATER(ボーン・ヘイター)」。
Beenzino/ビンジノ、Verbal Jint/バーバル・ジント、B.I/비아이、MINO/미노、BOBBY/바비。
当時の最強ラッパーたちを一堂に集めた楽曲だ。
それぞれが「ヘイター」に向けて、容赦なく言葉をぶつける。
韓国ヒップホップのクロスオーバーとして、歴史に残る曲になった。
縦型MVの先駆けとしても話題になった。
2014年に、すでにそれをやっていた。
코첼라コチェラ/Coachella2016 韓国人、史上初
2016年。
エピカイはカリフォルニアの砂漠に立った。
코첼라
世界最大級の야외/野外음악/音楽축제/フェスのステージに、韓国人アーティストとして史上初めて上がった。
BTS以前の話だ。
防弾少年団が全米を席巻するより先に、エピカイがそこにいた。
「コーチェラに韓国のヒップホップが来た」という事実が、海外リスナーの認識を変えた。
9집チプ『We’ve Done Something Wonderful』(2017) YG最終章
2017年10月、9집『We’ve Done Something Wonderful(ウィーブ・ダン・サムシング・ワンダフル)』。
タイトルが、泣かせる。
「我々は、何か素晴らしいことをやった」。
自分たちの歩みへの、静かな肯定だ。
代表曲「빈차/HOME IS FAR AWAY」ft. 오혁/オヒョク。
빈차
つまり「空のタクシー」。
家のない感覚を、ここまで美しく歌い上げた曲を、韓国ヒップホップで他に知らない。
YGを出て、自分たちの家に戻る
YGとの契約が終わった。
2019年、タブロは再び자주레이블/自主レーベルを立ち上げた。
Ours Co/アワーズ・カンパニー。
「うちらの会社」という名前だ。
10집チプ『Epik High Is Here 上・下』(2021・2022) 10枚目の正直
2021年1月、10집 上『Epik High Is Here 上(エピカイ・イズ・ヒア)』。
2022年2月、10집 下。
「내 얘기 같아/Based On A True Story」ft. HEIZE。
「自分の話みたいだ」。
聴いた瞬間、そう思わせる曲だ。
HEIZEの歌声と、タブロのリリックが、ちょうどよい温度で交わっている。
10집の下には「Rosario(ロザリオ)」「Catch(キャッチ)」。
デビューから18年経って、なぜまだこんな曲が作れるのか。
EP『Strawberry』(2023)・ミックステープ『Pump』(2024) 現在進行形
2023年2月、EP『Strawberry(ストロベリー)』。
Screen Time、Love Story。
Rolling Stone誌に批評家から絶賛される。
2024年6月、初のミックステープ『Pump(ポンプ)』。
북미투어/北米ツアー「The Pump Tour」も実施した。
2026年現在も「Epik High 3.0」と題した北米ツアーを진행중/進行中だ。
NY、ボストン、LA、バンクーバー。
止まらない。
K-POP史における位置づけ
2000年代初頭、K-POPの本流はアイドルだった。
その隙間に、えぐいほど密度の高いリリックを持ったヒップホップグループが現れた。
エピカイは、韓国語と英語を混ぜながら、サンプリングを多用しながら、「知性派ヒップホップ」という新しいカテゴリーを作った。
BTS(RM/アールエム)、iKON(B.I/ビアイ)、YGのラッパーたち。
公言する後輩は多い。
「Born Hater」一曲で、韓国ヒップホップのクロスオーバーを演出した。
コーチェラで、韓国音楽が世界と対等に立てることを示した。
20年以上・正規アルバム10枚という持続力は、韓国ヒップホップ史上でも例がない。
「エピカイ以前」と「エピカイ以後」という言い方が、韓国のヒップホップシーンには存在する。
韓国でのイメージ
韓国の今のリスナーにとって、에픽하이전설/伝説」でもあり、「현역/現役」でもある。
タジンヨ事件の傷を知っているリスナーが多いため、タブロへのやや보호적/保護的な感情がある。
「あんな目に遭ったのに、それでも続けている」という敬意だ。
一方で、세대/世代を超えた인지도/認知度を持つ。
「연애소설」や「Fly」は、10代が生まれるより前の曲なのに、今の若者にも普通に知られている。
2024年に旧曲「Love Love Love」がApple Music韓国チャートで2位になった。
20年越しのヒットが、普通に起きる。
それがエピカイという존재/存在だ。
ディスコグラフィー(主要作)
| 集 | タイトル | 年 | 代表曲 |
|---|---|---|---|
| 1집 | Map of the Human Soul | 2003 | Swan Songs |
| 2집 | High Society | 2004 | High Society |
| 3집 | Swan Songs | 2005 | Fly |
| 4집 | Remapping the Human Soul | 2007 | Fan |
| 5집 | Pieces, Part One | 2008 | One |
| 6집 | e | 2009 | 1분 1초、연애소설 ft. IU |
| 7집 | 99 | 2012 | Don’t Hate Me |
| 8집 | Shoebox | 2014 | BORN HATER |
| 9집 | We’ve Done Something Wonderful | 2017 | 빈차 |
| 10집 上 | Epik High Is Here 上 | 2021 | 내 얘기 같아 |
| 10집 下 | Epik High Is Here 下 | 2022 | Rosario |
| EP | Strawberry | 2023 | Screen Time |
| Mixtape | Pump | 2024 | Love Love Love |
余談
タブロの娘ハルが、エピカイファンになっている。
父親がエピカイのメンバーだと知った上で「ファン」と言っているらしく、日本語で言えば「身内なのに普通に推している」状態だ。
微笑ましいというか、父親の立場を想像すると少しこそばゆい話だ。
「Born Hater」のMVは縦型だった。
2014年のことだ。
当時は「なんでこんな형식/形式で?」と話題になったが、今や縦型コンテンツは当たり前になった。
10년/10年先を見ていたのか、ただの気まぐれだったのかは分からない。
「Epik High」という名前は意図的なダブルミーニングだ。
「Epic(壮大な)」と「Epiq(epigrammaticの造語)」、そして「High(高い)」という三重の意味を込めているとされる。
難しく考えすぎという説もある。
余談をもうひとつ。
タブロには『あなたのそばで眠れたら』という短編小説集がある。
韓国で2011年に出版され、日本語版も刊行された。
タジンヨ事件の渦中に書かれた作品が含まれており、あの時期の彼の内側が、フィクションという形で静かに滲み出ている。
音楽と文学の両方で表現し続けた人間の、もうひとつの顔だ。
エピカイを好きになったなら、この本にも手を伸ばしてほしい。
ラッパーが書く言葉は、詩に近い。
タブロの場合は、詩というより、傷口を丁寧に包んだ文章に近い。
音楽だけでは収まらなかった何かが、ページの中に静かに残っている。
言葉で生きる人間の、もうひとつの姿だ。
マルのひとこと
うりぬん、タジンヨ事件のことを知ってから、エピカイの음악
「あの数年間、タブロは何を考えながら曲を作っていたんだろう」と思う。
자신을/チャシヌル(自分を)疑う声が数十万人分、毎日ネットに上がっている状態で。
でも彼らは、また音楽を作った。
10집のタイトルが「Epik High Is Here」。
「エピカイは、ここにいる」。
それだけで、충분하다/充分だと思う。
에픽하이입니다。
エピカイという本来の読みを知ると、彼らの音楽がより近く感じる。
その言葉の重みが、音として、リズムとして、伝わってくる。


