BewhYと僕。비와이와나

K-HIPHOP

ヒップホップという音楽は、だいたい「金」か「女」か「敵」のことを歌う。
世界中どこでもそうだ。
ところがこの男は、マイクを握って真っ先に「神」のことを歌った。
しかも照れずに、堂々と、誰よりもカッコよく。

BewhY(비와이/ビワイ)。
2016年、『SHOW ME THE MONEY 5』で韓国中をひっくり返した男。
本名はイ・ビョンユン(이병윤)。
芸名のBewhYは、最初は本名のイニシャル「BY」だった。
それが「自分の行動の“理由(why)”になろう」という意味でBewhYになる。
さらにこの名前、もう一段深い。
アルファベットの始まりと終わりはAとZ。
その両端に最も近い文字が、BとYなのだ。
つまり「すべての始まりと終わり=神に、最も近い者でありたい」という願いまで込められている。
命名には相棒のッシジェム(C JAMM/씨잼)も深く関わった。
名前ひとつで、もう彼の世界観がぜんぶ分かる。
面倒くさいくらい、芯がある男だ。

今年(2026年)、7年ぶりの正規アルバムを引っ提げて彼が戻ってきた。
しかも、すでにうりぬんで書いたキド・ミリ(Kid Milli)の『TR』の「Time Looping」に客演していた、あの男が、だ。
点と点が線になる。


まず、ここを押さえてほしい(基本情報)

項目内容
本名イ・ビョンユン(이병윤)
芸名BewhY(비와이/ビワイ)
「become the reason」
生年月日1993年6月15日
出身大田(テジョン)生まれ
仁川(インチョン)育ち
デビュー2014年6月23日(デジタルシングル「Waltz」)
ジャンルヒップホップ/ゴスペル・ラップ
所属クルー $exy $treet
現在は無所属(元・DEJAVU GROUP主宰)
代表曲「forever」「자화상/ジャファサン pt.2」
「가라사대/ガラサデ」「STIGMATA」
信仰プロテスタント(長老会)

韓国でいえば仁川は、日本でいうと「成田と幕張をくっつけたような街」だと思ってもらえばいい。
海の玄関口で、空港があって、ソウルからちょっと離れている。
後で出てくる『032 Funk』というアルバムの「032」は、この仁川の市外局番だ。
彼にとって仁川は、ただの育った町ではなく、ずっと帰っていく場所なのだ。


音楽一家の末っ子と、G-DRAGON

BewhYの音楽は、家庭から始まっている。
母はピアノ教室の講師。
そして兄イ・ビョンイル(이병일)は、なんとポペラ歌手だ。
BewhYは幼い頃から、この兄に発声や音階を教わって育った。
後で出てくるSMTM5決勝の伝説的ステージで、オーケストラを手配し、合唱団として裏で歌っていたのも、この兄である。
あの神々しいステージは、実は“家族の作品”でもあったのだ。

そしてもうひとつ、うりぬんとしては見逃せない事実がある。
少年BewhYはBIGBANGに心酔していた
それも、ただのファンではない。
YGの社屋に潜入したことがあるほどのめり込んでいた。
中でも熱烈に愛したのがG-DRAGONだ。
彼は何度も「ロールモデルはBIGBANGとDynamic Duo」だと公言している。

うりぬん、ここでニヤリとしてしまう。
TeddyからG-Dragonへ、そしてその背中を追いかけた仁川の少年へ。
韓国ヒップホップの血は、こうやって静かに受け継がれていく。
教会で賛美ラップをやっていた少年が、YGの建物に忍び込むほどG-DRAGONに焦がれていた。
この“神と王”の二重の憧れこそ、BewhYという音楽家の出発点だ。

ちなみに、彼の進路には面白い逸話がある。
教会の牧師に「ヒップホップは悪しきものだからやめなさい」と言われたとき、少年BewhYはこう返したという。
これも、神が作ったものですよ」。
負けん気と信仰が同居した、いかにも彼らしい一言だ。


睡眠2〜3時間、ベトナム語専攻のラッパー

努力の人、という言葉がここまで似合う男も珍しい。

彼が進学したのは청운대/チョンウンデ(チョンウン大)のベトナム学科
そう、ラッパーなのにベトナム語専攻だ。
しかもキャンパスは忠清南道(チュンチョンナムド)にあり、仁川から片道2〜3時間の通学。
朝5時に起き、7時の通学バスに乗り、9時に大学着。
夕方に帰路につき、夜7〜8時に帰宅。
そこから夜10時〜深夜3時まで音楽制作。
睡眠は2〜3時間。
これを来る日も来る日も繰り返していた。

そしてアルバムを出すためにバイトで金を貯め、その金で自費リリースしたのが、非公式ミックステープ『Be The Livest』(2012年)や、公式デビューシングル『Waltz』(2014年)、ミックステープ『Time Travel』だった。
誰に頼まれたわけでもない。
ただ「神の文化を、実力で、カッコよく作りたい」という一心で。
この下積みの密度を知ると、後の爆発が腑に落ちる。
彼は“いきなり出てきた天才”ではなく、“誰も見ていない場所で殴り続けた努力家”なのだ。


SMTM4の屈辱、SMTM5の戴冠

BewhYの物語は、実は「負け」から始まっている。

2015年の『SHOW ME THE MONEY 4』。
彼は出場するも、予選の3次ミッションであっさり脱落した。
これだけ聞けば「ふーん」で終わる話だ。
だが本人は後にこう振り返っている。
「あのときの自分は、自分の価値を分かっていなかった」と。

ここがこの男のすごいところで、シーズン4とシーズン5のあいだに磨いたのは“技術”だけじゃない。
「考え方」と「心構え」を変えた。
マイクの前に立つ自分の“在り方”そのものを変えたのだ。

そして迎えた2016年、『SHOW ME THE MONEY 5』。

ここでのBewhYは、もはや人が違っていた。
プロデューサーチームのZICO&Paloaltoに見出され、毎ステージで“異物”を投下し続ける。
「자화상 pt.2(自画像 pt.2/ジャファサン)」自分の弱さも信仰もぜんぶ晒したこの曲で、視聴者は気づく。
「こいつ、ラップが上手いとかいう次元じゃない。生き方ごと殴ってくる」と。
前述のとおり、この決勝ステージのコーラスには兄と合唱団が立ち、オーケストラが鳴り響いた。
家族総出の祈りのようなステージだった。

決勝の相手は、よりによって竹馬の友、C Jamm
教会で一緒に賛美ラップをやっていた幼なじみふたりが、韓国最大のラップサバイバルの頂上でぶつかる。
こんなドラマ、台本でも書けない。
結果、BewhYが優勝。
ステージが終わったあと、ふたりは固く抱き合った。
勝った方も負けた方も泣いていた。
韓国ヒップホップ史に残る名場面だ。

優勝の余波はすさまじく、番組終了から半年で約12億ウォンを稼いだと言われる(その代わり過密スケジュールで声帯を痛めかけたという、笑えない裏話つきだ)。
そして優勝曲「forever」(GRAYプロデュース)は、翌2017年に栄誉の数々を獲得する。

  • 韓国大衆音楽賞(한국대중음악상) 最優秀ラップ&ヒップホップ-楽曲
  • 韓国ヒップホップアワード 今年のヒップホップトラック
  • ガオンチャートK-POPアワード 今年の発見(ヒップホップ部門)
  • 前年のMMAではTOP10、MAMAではベスト・ラップ・パフォーマンス賞

サバイバル番組発の曲が、韓国で最も“硬派”とされる音楽賞を獲る。
これがどれほど異例か。
日本でいえば、オーディション番組生まれの曲が、その年のレコード大賞の作品部門を本気で獲っていくようなものだ。
お祭り騒ぎの産物が、ちゃんと“作品”として歴史に刻まれた瞬間だった。


ディスコグラフィー ―― 一枚ずつ追う

正規1集『The Blind Star』(2017年9月17日)

SMTM5優勝から約1年。
満を持して放った初の正規アルバムが『The Blind Star(盲目の星)』だ。
先行EP『The blind star 0.5』で助走をつけ、本編で全貌を見せるという、彼らしい“予告編→本編”構成。

このアルバム、サウンド面の評価が凄まじい
一枚を通して物語が流れていて、ただ曲を並べただけではない。
「Curtain call」「Red carpet」は授賞式で喝采を浴びる自分を描き、「Bichael Yackson(バイケル・ヤクソン)」では“マイケル・ジャクソンのような伝説として残ってやる”という途方もない野心を言葉遊びにくるんで叩きつけた。
9曲目「My star」では、彼がラップではなく“歌”を歌う
GRAYのビートに乗る歌声が、じわじわ効いてくる名曲だ。

ただし正直に書くと、芸術的評価の高さとは裏腹に、商業的には期待ほど振るわなかった
それでもこのアルバムが今なお“名盤”として語られるのは、売上では測れない密度があるからだ。


正規2集『The Movie Star』(2019年7月25日)

彼のキャリアの一つの到達点がこれだ。
1月に「나의 땅/ナエ ッタン(僕の地)」、3月に先行曲「찬란/チャンラン(燦爛)」を投下し、7月に本編リリース。
タイトルどおり「映画」がコンセプトで、映画の効果音、クラシック音楽、オーケストラ風の壮大なビートが渾然一体となる。
アルバムを一周聴き終えると、映画を一本観終えたような余韻が残る
プロデュース能力が1集から飛躍したと絶賛された。

タイトル曲は「가라사대(ガラサデ)」。
この曲名がまた真骨頂だ。「가라사대」は本来、聖書などで「(神が)のたまわく/こうおっしゃった」という意味の古語
そこに英語の「gotta(〜しなきゃ)」を掛けている。
神の言葉と、自分の決意を、ひとつの単語に畳み込んでいる。
ゴスペルのコーラスとテクノ調のビートが映画的に押し寄せる、彼の代表曲だ。
2020年の韓国大衆音楽賞にもノミネートされた。


EP『032 Funk』(2021)

ここで彼は、ガラッと表情を変える。
名義はなんと「BewhY the Funkiest」。
重く挑発的なサウンドを脱ぎ捨て、ファンクの陽気さをまとった一枚だ。

この誕生秘話がいい。
当時、彼は「書くことがない」とスランプに陥っていた(その前年2020年には손심바/ソン・シンバとの合作『NEO CHRISTIAN』を出すなど、模索が続いていた)。
すると奥さんが「難しいことじゃなくて、日常のことを書けば?」と助言した
そこで選んだテーマが「旅行」。
タイトルの「032」は仁川の市外局番=仁川国際空港のこと。
海外へ旅立つには仁川を通る。
つまり「032=旅の出発点」。
「偽物ラッパーへの批判」ではなく「ひとりの人への愛情」を歌う。
肩の力が抜けた、人間BewhYが見える愛すべき一枚だ。


兵役、そして父に

2021年8月、彼は海洋警察(海洋義務警察)に入隊する。
仁川の海洋警察庁本庁の管弦楽団に所属し、各地の公演を回りながら務めを果たし、2023年4月22日に満期除隊した。
海の町・仁川の男が、海を守る制服を着た。

そのあいだに人生も大きく動いた。
2020年に8年来の交際相手と結婚し、2023年1月に長女、2025年2月に次女が誕生。
あれだけ神と格闘してきた男が、今は二児の父である。


正規3集『POP IS CRYIN’』(2026年)

『The Movie Star』から実に7年ぶりとなる正規3集。
自身が率いてきたレーベルDEJAVU GROUPを解散し、無所属に戻った“その後の最初の一手”だ。
先行シングル「SOUTHSIDE FREESTYLE」(5月8日)、タイトル曲は「STIGMATA(スティグマータ=聖痕)」。
7年分の重みを、これまでになく激しいスタイルで吐き出した、賛否を呼ぶ問題作。
韓国メディアはこれを「BewhY 2.0」と呼んだ。
良くも悪くも、彼がまだ“現在進行形”であることの証拠だ。


ディスコグラフィー一覧

作品形態備考記事
2012Be The Livestミックステープ非公式デビュー準備中
2014Waltzデジタルシングル公式デビュー準備中
2016forever / 자화상 pt.2SMTM5音源「forever」2017韓国大衆音楽賞受賞準備中
2017The Blind Star正規1集サウンド絶賛・商業的には不発準備中
2019The Movie Star正規2集タイトル曲「가라사대」準備中
2021032 FunkEP「BewhY the Funkiest」名義準備中
2026POP IS CRYIN’正規3集7年ぶり・「BewhY 2.0」準備中

K-POP史におけるBewhY(外から見た功績)

韓国ヒップホップには、いくつかの“地殻変動”があった。
タイガーJK(Drunken Tiger)が道を切り拓き、EPIK HIGHが大衆と芸術を橋渡しした。

BewhYがやったのは、そのどれとも違う。
彼は「サバイバル番組の優勝者」という、ともすれば一過性で消費されがちな立場から出てきながら、一発屋にならず、むしろ韓国ヒップホップの“作家性”の象徴になった。
お祭りの勝者が、本物の音楽賞を獲り、コンセプトアルバムを撃ち続け、信仰という最も売りにくいテーマで突き抜けた。
SMTM以降の若いラッパーたちに「サバイバルから出ても、作品で本物になれる」という道を示したのだ。


韓国でのBewhY(内から見たイメージ)

韓国でのBewhYは、ひとことで言えば「実力は絶対的、だが我が道を行く一匹狼」だ。
SMTM5の伝説は今も語り草で、「歴代最強の優勝者」議論に必ず名前が挙がる。
優勝後、大手レーベルからの誘いを断って独自路線を選び、自分のレーベルを立ち上げた“インディペンデント魂”は、韓国ヒップホップシーンで一目置かれている。
信仰に裏打ちされた頑固なまでの一貫性は、好き嫌いを分けつつも、「あいつは本物だ」という敬意に繋がっている。
流行に乗らず、誰の真似もせず、自分の信じる音だけを鳴らし続ける男。それがBewhYだ。


余談 ―― マルの好きなBewhY

僕がBewhYを表すなら、宗教的哲学者 aka.ラッパーだろうか。

仏教徒のラッパー、ドキ(Dok2)と仲が良いのだが、BewhYが「兄さん、教会行こうよ」と誘ったら、ドキが察して般若心経を唱え始めた、という話がある。
宗教の違いを笑いに変えるこの空気、最高じゃないか。

The Quiettのモノマネがやたら上手いとか、ミントチョコがあまり好きじゃないとか、チワワ(名前は「電球」)を飼っているとか。
あの神を歌う男が、こういうゆるさも持っている。

髪型も独特で、いわゆる「ダウンパーマ」で有名。
維持が大変で、今は頭皮が傷んでできないらしい。
そういえば顔が映画『梨泰院クラス』のパク・セロイに似ているとも言われる。
ゴリラーマンにも似ている気がする気がする。
神を歌い、ベトナム語を専攻し、チワワを愛し、パク・セロイ似…情報量が渋滞している。

そして繰り返しになるが、彼はうりぬんで以前書いたキド・ミリ『TR』の「Time Looping」に客演している。
当時はまだ“伸び盛りの後輩同士”だったふたりが、後にそれぞれ韓国ヒップホップの台風の目になる。
あの一曲は、いま聴くと「ふたりの未来が交差した記録」だ。歴史は、こうやって後から意味を持つ。


マルのひとこと

BewhYで印象的に残っているステージは数多く。
SuperBewhYで跳ねてるところもリズム感の神だし。
Foreverも忘れられない。
ただ、一つ絞るならDay Day feat Jay Parkのステージじゃないだろうか。
このステージで彼はThe Time Goes Onという曲を歌うのだけど
歌詞に衝撃を打たれたのが一番だと思う。

俺の人生はまさに神が作る芸術作品のfeaturing
俺の不完全さを用いる創造主義Symphony
俺によって書かれていく偉大なHistory
もしかして、この全ては俺の物語ではなくて……
His Story

――BewhY「The Time Goes On」より(作詞:BewhY)


宗教という枠を超えて哲学的な部分を感じたのもここからだったのかも。
天才すぎる。

うりぬん、もう知っているのかもしれない。
この男の物語が、まだ第二幕の幕開けだということを。

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